ユナタン

週刊メッセージ“ユナタン7-47”

2018年7月11日 水曜日

【ユナタン7-47】
  ~ プールの季節、コーナーでも遊泳 ~ 

2018年7月11日  片山喜章

もみの木台保育園では、2歳児クラス以上の子供達は2階のテラスにある大きなプールに入ります。それ以外の時間は基本2歳児~5歳児までのコーナー遊びです。普段、2歳児クラスの子供達は1階のお部屋にいますが、プールの後の時間は幼児クラスと一緒に幼児クラスのコーナーで遊びます。比較的ゆったりした幼児クラスの保育室を活かしたこの時期ならではの保育の特色です。

7月4日、プール活動が始まって2日目のことです。2歳児クラスの洋くん(仮名)は、早めにプールから上がって着替えをし、一番乗りで幼児のコーナー遊びにやってきました(というのも洋くんは、おしゃべりは得意ですが、大きなプールが苦手です。さっさと先に上がって早く室内であそびたかった、そんな感じでした)。着替え終えて出てきた所には、椅子でつくった仕切りがありました。その中で5歳児クラスの子どもたちがままごとをしていました。一つ下の年中児クラスの子が仕切りの中に入ろうとすると「ここは私たちの所だから入らないで!」と言い放っていた一郎くんも2歳児クラスの洋くんが入ると、ムッとした表情になりましたが大きく息継ぎをしてから「ま、しかたないか」と、作り笑顔を浮かべながら許容しました。洋くんは、ままごとコーナーにある物を物色し赤ちゃんのミルクの玩具を見つけると赤ちゃんの人形も棚から取り出し机の上に寝かせてミルクを飲ませます。しかし、洋くんなりに空気を感じたのか、その赤ちゃんを後からやってきた2歳児クラスの他の子に譲り、次のコーナーに移動しました。

次に向かったのはラキューコーナーです。そこには年長児クラスの子ども達がラキューで作ったカッコいい車やらお家等が飾ってありました。洋くんはニコッとしその中の車の一つを持ち上げて遊ぼうとします。そこへ一郎くんがやって来て今度は「ダメだよ、勝手に触っちゃ」と一喝。ここは許容しない一郎。ままごとという形のない遊びに侵入することは許せても、ラキューで作った作品を触られることは許さない年長児。洋くんは一瞬しょぼんとしつつも、何かを悟った様子で気持ちを切り替えてラキューを組み立てるコーナーに行きました。そこでラキューを手にして作品づくりにトライ。しかし2歳児の洋くんには無理でした。

そしてまた次の場所へ…
積み木コーナーの棚にはフィギアの人形やら、ブロックがあり、一通りなにがあるか全部の箱の中を覗いて確認しました。そして、見つけました!
普段、自分のクラスでも遊んでいる『汽車の玩具』です。その箱を引きずり出して、普段、自分がお気に入りの形の汽車を見つけて遊び始めました。“でもこれなら自分のクラスのお部屋にあるし‥…” しばらく集中して遊びながらも興味は他の所に移っています。(もっと何か楽しいことないかな)そんな様子でした。

そして次に向かったのは制作コーナーです。この日は七夕にちなんで、七夕の製作をしていました。30㎝程の長さのスズランテープに星形のシールや、キラキラで色とりどりのビーズをボンドで貼って天の川のような物を作っていました。洋くんがまず興味を示したのは星形のシール。自分でも貼ってみます。そして次に興味を持ったのが色とりどりのキラキラビーズ。しかしこれはシールの様にそのまま貼り付けることが出来ずなかなか思うようにいきません。ここで先生がキラキラビーズにボンドを付ける仕草をして見せました。洋くんは指でボンドをたっぷり取ります。そして自分の手の上にボンドをつけて遊び始めました。
ボンドの感触に夢中の洋くん。「飾りをつける事への興味は消えちゃったのかな?」と先生が、洋くんが手に付けたボンドの上にキラキラビーズの飾りをつけてみました。あ、そうだった!というようにキラキラビーズの飾りに再び興味を持ったSくんは手についたキラキラビーズを今度はスズランテープに貼っていって、飾りをつくっていました。

以上、プール活動がはじまて2日目の様子でした。洋くんは普段とは違う広くて新しい環境に興味津々でした。驚きの連続だったことがわかります。しかし同じ2歳児クラスでも15名の姿は実に様々です。広いことが不安になる子。担任となら遊べる子。1つのコーナーに入り込んで3歳児クラスの子と遊ぶ子。それぞれですが、これから夏が終わるまでこのような暮らし方を経験することは、有意義だといえると思います。
プール活動の時期は水に親しみながら水中で自在に動く経験を重ねます。そのためにできるだけ無駄なく効率的に入水できるように努めます。そのためのコーナー保育が思わぬ副産物をもたらした例です。各園において、このように普段の保育とはちがったこの時期ならではの工夫された生活が展開され、成果が得られるだろうと期待します。 【話題提供:もみの木台保育園 太田亜希・森田彩未】
※ 次回、7月25日は、なのは乳児園(神戸市灘区)です。

週刊メッセージ“ユナタン7-47

2018年7月25日 水曜日

【ユナタン8-48】
~ してあげる or させてあげる ~

2018年7月25日 片山喜章

「日本社会は乳幼児が元々持っている能力について理解していない。親でさえ我が子をコドモ扱いしている」とこれまで吠えてきました。なぜなら、子どもの人としての知的好奇心や探求心は脳内で活発にはたらいていても、実際、現れ出る姿は大人社会において「汚い、危ない、ふざけ」と映るからです。保育士も同じようにその子なりに試している姿を“危なそうだから”=禁止するケースが多数です。
リスク回避とは、リスクを奪うことではなくリスクとうまく対峙させることですがその発想には至らない。これこそ教育・保育に限らず日本のリスクです。

今月20日、ニュージランド視察に行った法人の人たちから報告がありました。どの園も園庭にたくさんの石ころが所定の場所に設定されている。しかし石ころは大小様々だけどすべて丸みのあるものばかり。ドイツ(私が見たのはミュンヘン)や北欧ではふつうの園庭の光景です。国内において2歳児がハサミを使う姿を見て「危険、時期尚早」と感じる園と「この時期に経験し3歳児になれば自分のペースでハサミを駆使して探求心を形にする」と評価する園に分かれます。保育というよりも安全に対する基本的な捉え方の差であり根本的な人生観のテーマです。

もう1つ、乳児の知性や関係性の育ちにおいて未発見のことがたくさんあります。『状況』に接して何とかしようと考える思考の中身についてです。1、2歳児12人をワンルームの部屋で保育する小規模保育園「なのは乳児園」での物語です。
「あら~、ヨシ君また鼻出てる~」と担任が近づくと、そこに2歳児のルミもついてきました。手にはティッシュペーパーの箱を持っています。担任が“ありがとう”というや否やルミはティッシュを取り出してヨシ君の鼻を拭いてあげたのです。ヨシ君は嬉しそうに“されるがまま”でした。担任は「ありがとうルミちゃん」とお礼を言いました。その後、しばらくしてトイレから声が聞こえてきます。
「できな~い」ナリエの声です。担任は声の方に向かいます。その後をルミもまたついていきました。目に入ったのはナリエのパンツとズボンです。裏と表がぐっちゃぐちゃにねじれて、見ているだけでイライラッとなる状態でした。
「ナリエちゃん、なおしたろか」ルミが声をかけます。ルミは座り込んでナリエのパンツを手にしたその時、「やめて、じぶんでするから!」とナリエは声を荒げたのです“助けを求めたの、アンタでしょ?!…”ルミの表情は曇ります。
そこで担任は「ナリエちゃん自分で履くんだって、ルミちゃん、ありがとね」とねぎらいの言葉をかけました。ルミはがっかりした表情でその場を去りました。
ルミがその場から立ち去ろうした瞬間、ナリエは「できなあ~い」と叫びます。その声に反応してルミは即リターン。「ルミがやったる」とナリエに迫りました。しかしまたまたナリエは「じぶんでする~!」と言い返します。2人は、裏と表がひっくりかえった花柄のパンツの取り合いをはじめました。
「手伝ってあげたいルミ」「日頃からライバル意識をもっているルミには手伝ってほしくないナリエ」「自分でしたい」「が、できない」単なる2人の2歳児の姿ではなくて2つの尊厳をもった人格のぶつかりあいと見ていただきたいものです。

この場の殺気を少し離れたところで感じたヨシ君がやってきました。「ナリエちゃん、パンツ履けなくて困っているからルミちゃんが手伝ってあげるって言ったんだけど…ナリエちゃん嫌みたいなの。どうしよう…」と担任はヨシ君に窮状を説明しました。すると「ヨシがやったるわ」と、2人が取り合うパンツではなくて、その向こう側にあるズボンを拾いました。「はあ~?」2人は呆然。ヨシ君は使命感満載。ズボンの裏と表を上手にひっくり返して“どうだ”と言わんばかりに得意気になるヨシ君の姿にぐっちゃぐちゃの気持ちが戻ったのか2人とも笑い始めました。
「じゃぁ、パンツはどうする?」と担任が尋ねるとルミは「ルミがやったる」と言うとナリエは気持ちを切り換えて“上からトーン”で「じゃぁ、ルミちゃん」と命じました。ルミは、すこし手間取りながら、しかし笑みを絶やすことなくナリエのパンツを履けるように整えました。

パンツとズボンはほどよくナリエの前に並べられ、ナリエさんお着替え~。ルミもヨシ君も絵に描いたように「がんばれ~」と応援します。2人の応援を受けながらナリエは「う・う・ちょっと上がらないな」とつぶやく。汗で上がりにくい状態になっていました。どうする?と担任が心配する間もなく、ルミが前を、ヨシ君が後ろにまわって持ち上げました。お神輿を担ぐような、3人相撲をしているような、3人が1つの事を成そうとする賢明な姿を微笑ましく見るのは失礼な気がします。
最後は、ズボンの裾を見つめながら「(足)出てくるかな?」と慎重に事をすすめて「やった~!!」と歓喜の瞬間が訪れたのでした。2歳児どうしの姿です。広くない部屋ならではの関係性の育ちです。この3人3様の複雑な心模様から私たち大人こそ社会のあり方や世界のあり方を考え」直さなきゃ、と感じた事例でした。
【資料提供:なのは乳児園(小規模):藤本裕美】 ※ 8月はお休みします。