種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”24(はっと)

ユナタン:24≫ at はっとこども園

~ 三人三色の感触 ~

平成28年10月21日 片山喜章(理事長)

乳児の保育(遊び)に欠かせないものの1つに、絵具、片栗粉、寒天、土、泥、砂…などに触れる“感触遊び”があります。けれども“素材”によって、また“素材との出会い方”によって好き嫌いがはっきりする場合があります。好奇心と恐怖心、心地良さと不快感が入り混じった不思議な世界が感触遊びです。毎回、担任は、いかに工夫を凝らすのか、その子らしさが毎回、どう現れるのか、毎回、毎回、興味深いのです。

≪そんなつもりじゃない…≫

紙と絵具と水を用意して、担任が「いまから、絵具するからね~」の声をかけると、まっ先にやって来たのは、これまでの感触遊びでは手が汚れることを嫌っていたAくんでした。「わぁ~Aくん、自分から来てくれた~」と少しうれしくなった担任が、水と絵具を目の前に差し出すと…、そのとたん「ぎゃ~!」と泣きながら椅子から飛び降りて逃げていきました。「どうして?」と担任は不思議に思いました。けれども、よく考えると、その場所は、Aくんが机上遊びをするときの場所でした。Aくんはきっと机上遊びの玩具が出てくるはずだと思っていたのかもしれません。そこに苦手な絵具が出て来て、赤や青のどろりとしたカタマリを見たので、ビックリした、というところでしょう。

担任たちは、そんなAくんの姿を微笑ましく見守っていましたが、その場を避難したAくんをみると、その目には、驚きと困惑のようなものが滲んでいました。

「ごめん、ごめん、そんなつもりじゃなかったのに」と担任。一方のAくんの方も、「ぼくだって、そんなつもりで、そこにすわったんじゃない!」と言いたげでした。

こんなふうに“その子の思い”と“担任の思い描くもの”がうまく溶け合わないことが乳児のお部屋ではしばしば起こるのです。それはそれで良い事だと思います。そんな色違いの思いが混じり合うなかで、双方が学び合い、育ち合うと考えるからです。

≪2人ですれば怖くない≫

この絵具の感触と色合いを楽しむ活動は、2人ずつ、2つのテーブルを使って行なっていました。今年度、入園したBくんにとって、絵具や感触遊びは、不慣れです。自分の番が来るまで、パーテーション越しに、恐る恐る2つのテーブルで、絵具に触れている友達の様子をのぞき込んでいました。とても気になります。興味と不安が入り混じった表情でしっと見ています。そして、自分の番がやってきました。目の前に絵具が置かれると、しばらく手はひざの上に置いたまま。ジーっと“観察?”していました。

しかし、まもなくBくんの隣に座ったCちゃんが豪快に絵具をべったり手につけて、パン、パン、パン! スタンプのように手のひらで机を叩くのを見てスイッチがON。

2人でリズム打ちをするように机をパンッパンッパンッ! と叩き始めるも色がつかない! あれ? Cちゃんをチラリ。Cちゃんは、絵具を面白そうに手に付けていました。“なんだ~怖くないんだ”とBくんは感じ取り、自分も絵具に指を入れて、Cちゃんと目を合わせて、いっしょにバンッバンッバンッ! 表情は一気に変わり満面の笑み。

辺りには、色しぶきが飛び散り、担任は、少し困ったような表情を演じました。自分たちが、はしゃいで担任を困らせるのは、楽しいものです。その姿を見て、2人は、さらに勢いよく、バンバンと色のついた手のひらを机に叩きつけていました。

「(Cちゃんと)2人ですれば、絵具なんか、怖くない」とBくん。「2人ですれば、センセイなんか怖くない」そんな姿のBくんとCちゃんでした。

≪ほんとは触れたいけど…≫

Bくん、Cちゃんのはしゃいでいる様子を2メートルくらい離れて見ていた子どもがいました。あのAくんです。実は、椅子から飛び降りて逃げた後、他の友達が絵具に触れている様子を担任は観察したのです。自分が嫌だと感じた事、それを他の友達はどんなふうに感じているのか、1歳児の子どもでも関心を持っているのです(スゴイ)。

この時、大人のかかわり方は様々です。「無理矢理にでも経験させようとする大人」、「あれやこれやと誘いの言葉を投げかける大人」、そしてとうとう“弱虫”“情けないなあ”と「落胆した気持ちをその子にぶつけてしまう大人」、そうではなくて「そんな子どもの姿をそっと見守り、その子の気持ちに寄り添う大人」、このような大人の振る舞い方しだいで、その子の人柄は変わっていくことをあらためて確認したいと思います。

その時、担任たちは、逃げていったAくんの様子を気にしつつも、あえて見ていないフリをしていました。目が合うと、ふたたび恐怖を感じる可能性があるからです。

しかし、担任たちは、これまでのAくんの姿をよく知っていたので、少し待ってあげることにしました。待ってあげている担任の気持ちに応えるように、Aくんの恐怖心は好奇心へ、そしてチャレンジする態度に変容したのです。1歩ずつ、その席に近づいていきます。遂に手を伸ばせば触れられる距離に立って、にらめっこ。次の瞬間、1本指で…チョン。絵具の感触にびっくり! あわてて絵具のついた指をみて、ブルンブルンと手を振りながら急いで担任のもとへ走っていきました。「やった~」という思いなのか「気持ち悪い」という逃避なのか、定かではありませんが、自分から触れたのでした。

特に乳児の場合、担任は、どの程度、待つか、見守るか、その判断が難しく、面白味でもあると思います。しかし、今回も結局、友達の姿に触発されて、そこでチャレンジ精神が芽生え、行動に至ったと考えるのが妥当でしょう。 【資料提供:西尾友里】