片山喜章のページ

種の会の創始者 片山喜章が、各園での保育や子どもたちのエピソードを通じて、日本の保育に対する思いや提言を綴っています。

片山 喜章
神戸市における男性保育者の第1号。保育に関わる講演や、「新幼稚園教育要領、保育所保育指針、幼保連携型認定こども園教育・保育要領がわかる本(ひかりのくに出版、共著)」「現場発!0~5歳児 遊びっくり箱(ひかりのくに出版)」等、保育の実用書やあそびの本を多数執筆・監修。

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1歳児の子どもでも持っている、友達を“援助するこころ” #ユナタン⑥

2021年12月2日 木曜日

2021年12月 片山 喜章

1歳児クラスの子どもたちが0歳児の保育室で過ごしていた時の出来事です。

お鼻がでているジュリアに花子先生は「自分でティッシュを探してお鼻をふけるかな?」と声を掛けました。

ジュリアはあちこちを見渡し、ロッカーの上の棚にあるティッシュの箱を発見しました。しかし、1歳児の保育室とは違い、子どもの手が届かない高さにティッシュの箱が置いてあります。ジュリアは背伸びをしますが、思うように手が届きません。

しかも、ティッシュの取り出し口が棚の横面にピタッとくっついていましたから尚更です。

そこで台になる物を見つけて運ぼうとしましたが、重くて、重くてうまくいきませんでした。

そしてとうとう、自分の両足をロッカーにかけて登って両手でつかまりました。しかし片手で体を支えながら、もう片方の手でティッシュの箱を掴もうとするのは困難でした。

“ああ、やっぱり無理だったかな、でも自分の力で何とかティッシュを取ろうとするジュリアの心意気は凄いな”と花子先生は感心しながらその様子をずっと観察していました。

“そろそろジュリアのガンバリを褒めてあげて、私が取ってあげようかな”と思っていたまさにその時、ドラマは生まれたのでした。

ジュリアが悪戦苦闘している様子をじっと見ていたのか、たまたま目に入っただけなのか、そこはよくわかりませんが、

突然、同じ1歳児で背の高いトオルがやってきて、ティッシュの箱を取ってあげようとしたのです。

“わ~、トオルくん、素敵!”と花子先生はトオルの思いやりに感激しました。

しかしドラマはさらに深みを増します。

トオルはティッシュを取ってあげるのではなくて、自分で取ろうと奮闘していたジュリアの気持ちを汲んだのか、ジュリアが取りやすい方向に箱の位置を動かしたのです。

そして何も言わないで立ち去っていきました。

その場面を見た花子先生は、逆にトオルに教えられた気になりました。

私たち大人は多くの場合、「子どもができない事はやってあげる」のが援助だと意識の表面で考えがちです。

しかし、その子がしたい事が出来なかったら、自分でできるようにしてあげることが援助であり、見守るという行為です。

子どもは関係性の中で育つと言われますが、1歳児の気持ちを1番理解しているのは1歳児なのかもしれません。

子どもどうしの玩具の奪い合いでは、もしかすると、奪う側の気持ちも奪われる側の気持ちも、お互いの気持ちを双方が意識の深~いところで理解しあっているのかもしれません(大きなトラブルがあっても30分後、また同じ2人で仲良く遊ぶ場面をよく見かけます)。

今回のケースは、この園の日頃の保育や園風土を色濃く反映したものだと言えます。

それにしても、我々大人社会こそ、乳幼児の世界から真摯に学ぶべきことが多いように思います。