種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”14ー②

ユナタン:14≫ at 池田すみれこども園      

~ 「子ども主体」は「子どもどうしの中」で現れる ~

                     平成28年4月22日  片山喜章(理事長)

<「あそぼ~や」の力>

4月早々、これまで慣れ親しんでいたクラス(保育室や担任)がかわるだけで、何となく不安になる子どもが居ます。ですから、法人の基本方針として「移行期」を設けて、「年度の落差」をできるだけ無くして、よりていねいな保育をめざして実践してきました。

本園において、今年度は、しっかり取り組みたいと思います。「移行期」とは、例えば、2歳児桃組は、運動会が終わった頃から、少人数(1回6人くらい)が2階にあがって半日、過ごす日を設けたり、11月頃から、幼児クラスのセミバイキングの食事のスタイルを模して、桃組の保育室でも、子どもがトレーをもって並んで先生によそってもらう等、日々、“成長し発達している子どもに対応した生活の形”をつくっていく考え方です(12月に改めて説明します)。

4月早々の事です。朝、バイバイするとき、桃組のAちゃんが泣いていました。赤組のときからいるので、保護者の方も保育者も“なんでだろう?”と不思議に思い、時には、Aちゃん以上に保育者が“不安”になったとのことでした。保育者が心配し過ぎると子どもにも“感染”し、Aちゃんはますます不安になって、毎朝、バイバイするのを嫌がります。けれども、1時間も立たないうちに、いつものAちゃんに戻ります。私は、経験的にこれは“豊かな感受性”の1つの現れであると理解しています。(ですから、白組になった頃のAちゃん姿が楽しみです)

そんなある日、「いや~」と泣き叫んで床でひっくりかえり、足をバタバタさせるAちゃん。担任が、どんなになだめすかしても、収まらない状態でした。そこに同じ2歳児桃組のBちゃんが近づいてきました。以前からなかよしでした。Aちゃんの泣き叫ぶ姿を見たBちゃんが一言。

「どうしたん? 泣いてんのん? あそぼーや」と声掛けすると、すっと泣き止んで、立ち上がり、スタスタと2人で「ままごとコーナー」の方に向かいました。(なんじゃ、これ~!)

私たちは、折に触れ「子どもは子どもどうしのかかわり合いの中で育つ」と訴えてきました。そして、そんな保育をめざしています。運動会の「練習の仕方」や「なかよしベンチ」はその具体です。ですが「4月早々の2歳児が、同じ2歳児の友達のあっさり不安を取り除くとは!」と正直、驚きを隠せないエピソードでした。2歳児クラスも「コーナー」で、子どもどうしで遊ぶ機会を保障し環境を整えています。もし“先生主導”の保育ばかりだと、こんなふうにBちゃんは主体的にAちゃんに関われたでしょうか。“普段の保育”の成果だと、私は信じます。

 

<危機管理は子どもとともに?>(掲載に関して、Mちゃんの親御さんの了解を得ています)

池田すみれこども園には、おひさまの光にあたってはいけないMちゃんがいます。

昨年度は、桃組、赤組のクラスを自在に行き来して、生来の“明るさ”や“ひとなつっこさ”もあって、2つのクラスで“人気者”でした。今年度、2階の黄組に属しながら、居心地のよい1階の保育室もMちゃんの生活の場になっています(光にあたれない制約があるから、1つのクラスに固定しないで、室内で過ごせる生活空間をできるだけ広くしようという考え方です)。

Mちゃんの担当者(複数)は、常にMちゃんとともに過ごしています。ふつうの子どもの2000倍も紫外線を吸収してしまう大きなリスクを背負っているMちゃんですが、親御さんと相談した結果、UVカットの帽子や手袋をしっかり着用して、時々、園庭で遊ぶことにしています。(室内のガラスにはUVカットのフィルムを貼っています)。けれども、暑くなったり息苦しくなったりすると帽子を取ろうとすることがあります(そのたびに担当者は着けなおします)。

4月早々のある日、Mちゃんは、2歳児桃組の子どもたちと、Mちゃんの担当者といっしょに園庭であそんでいました。機嫌よく遊んでいるMちゃんを確認した担当者が入室準備のために、少し離れた瞬間。「せんせっ~!」「せんせ~!」と悲壮な叫び声がします。同じクラスの男の子の声です。振り返ると男の子は、Mちゃんを指さしていました。Mちゃんは、まさに自分で帽子を取ろうと両手を頭に持っていって動かしている瞬間でした。担当者はすぐさま駆け寄って制止し、何事もなく、Mちゃんは無事に、そのままお部屋に戻りました。

ほんとうに大事に至らなくてよかった。担当者の仕事の仕方を見直す必要があります(複数の担当者が時間を区切って集中して庇護する等、集中状態を常態化する布陣が必要)。Mちゃんの事は私も認識していますが、文字や言葉の情報だけでは「受け入れ困難」という“考え方”が首をもたげていました。行政に対する不満も頭をよぎります。けれども、私も、実際にMちゃんに会って関わって、楽しげに生活する姿を目の当たりにすると「使命感」が湧き上がります。

「受け入れたい」という園長以下、職員集団の気持ち(願い)が理解できます。今回の件で思うのは、Mちゃんの存在に慣れ親しんでいるが故に、リスクの存在を無意識に軽く捉えていたのではないか! その警鐘だと受け止めて、早速、話し合って対策を講じることにしました。

そして、大声を出した2歳児(昨年の1歳児)の“男の子の叫び”には、ただただ感謝です。担任たちは、Mちゃんのリスクについて、(1~2歳児なので)子どもには一切、話していませんでした。なのに!知っている!! 普段の担当者や保育者の動きや言葉で理解していたのでしょう。昨年度、赤組、桃組を行き来していたことが幸いして、危険を察知して先生に知らせたのでしょう。すばらし過ぎる子どもの姿に、自戒と感謝と感動が入り混じった一件でした。

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ユナタン:14≫ at みやざき保育園 

 ~ “スーパーチューズデイ”から ~

                    平成28年4月20日  片山喜章(理事長)

みやざき保育園では、ご存知のように毎週、火曜日、登園してお昼まで幼児クラス全体が1階の保育室すべてを活かして、さらに園庭も活用して「コーナー・ゾーンの保育」が展開されています(毎週、廊下に様子が掲示されています)。このスタイルによる教育的価値は、まだまだ世間に認知されているとはいえませんが、間違いなくスゴイです! 次代を見据えた新たな教育のスタイルですから当然、主要なコーナーには担当保育者が居て、より活き活きおもしろくするために、子どもたちの創意や探究心をしっかり受けとめようと、先生たちもヒッシです。

今年度、法人全体で「コーナー・ゾーン(ごっこ遊びへと発展したもの)」を豊かにするための「指標」を制作して、各園の実践を後押しする取り組みに着手しています(これまでは、アメリカ製の「保育環境スケール」を用いて、保育環境の充実に努めて一定の成果を得ました)。

4月12日の火曜日、園長、主任、前園長の岸田さんとともに、私も「指標づくり」のために、各コーナーの様子を凝視し観察しました。そのなかから、2つのエピソードを取り上げます。

制作コーナーは、端の部屋で仕切られているので、他のコーナーの様子があまり気にならず、そこを選んだ子どもたちは黙々と活動していました。1つのテーブルに4人の男児がすわって、それぞれ違うモノをつくっていました。段ボールを切ったり、ガムテープをつかったり…。その時、気になったのが子どもたちの会話です。お家の話、テレビの話題、明るく軽く、子どもらしいといえば子どもらしい姿です。私はその時「“制作”に集中できていないな」とも感じました。

教育者は、概して、いろんな現象を“教育的なまなざし”でみつめてしまうクセがあります。

私も、4人の男児たちの会話になかに“制作物に関する話題の深まり”をしぜんに期待していました。実際は、手を動かす(制作)より、口が良く動いていて、手作業とは無関係な会話を楽しんでいました。「制作は暇つぶし?」とキョウイクシャとして、若干の失望感を抱えながら、その場を後にして、隣の“ごっこ遊びのコーナー”に向かいました。

このコーナーは、“お店屋さん”で賑わったり、“美容院”になったり、狭い保育室を保育者と子どもたちが協同しながら、うまく遊びを広げて深めている“ゾーン”です。

この日は、朝、にわかに“病院ごっこ”が始まり、みるみるうちに活性化していきました。そこで驚いたのは、3歳児の女の子が白衣を身にまとい、聴診器をぶらさげて、女医さんとして振る舞っている姿でした。他にも“医師”は3名、椅子にすわり、患者さんは、新学期早々だから?? 行列ができるほど、たくさんいました。

中でも、5歳児の男児が両手で抱きしめた我が子(わが子に見立てた人形)の診察に訪れている光景は、おもしろかったです。我が子(人形)を案じて、あれこれ質問する父親(5歳児の男児)にその女医さんは、緊張した表情で聴診器を赤ちゃん(人形)の背中にあてていました。

そして“ごっこ遊び”として、停滞し困惑している女医さんに対して、担当の先生は、横の棚に、オクスリ手帳(本物のカラーコピーを素材にしている)と注射器をさりげなく用意しました。そこからまた進展します。このような教材(白衣やオクスリ手帳や注射器など)を事前に準備し、差し出すタイミングを見計らうコツ、場面、場面でうまくかかわるタイミングを逸さないこと、これらの事が保育者、教育者の指導性、専門性だと思います。ご理解ください。

そこへ、さっき「制作コーナー」で会話を楽しんでいた男児がやってきました。頭には楕円形の帽子が乗っかっていました(これをつくってたんだ)。自称、「救急救命士」です。3人の医者たちと“連携”をはかろうとします。彼は、朝から“病院ごっこ”に参加する目的で「救急救命士」をめざして“制帽”を制作していたのです。ということは、友達と世間話を楽しみながら、自分の目的に向かって制作していた、ということになります。私は、正直、唸りました、というよりも、子どもを「自分が期待する教育の対象」として見ていたことに気づかされました。

4人の男児それぞれが、同じテーマで会話を楽しみながら、それぞれ違う目的を胸(頭)に秘めて制作活動に興じていたことになります。この現実をスゴイ!と評するのではなくて、子どもたちは、本来、持っている自然な姿を表出させているだけ、そのような場をつくって、彼らの力を引き出した先生たちがスゴイ! と自賛するのが、適切だと感じました。

また、4月早々の3歳児が、女医さんになって患者さんを診察する姿も不思議です。

リサーチすると、2歳児クラスで“病院ごっこ”など、盛りだくさんのごっこ遊びを日常的にしていたそうです。下に降りたばかりの3歳児と言っても慣れ親しんだ遊びです。まして、4,5歳のお兄ちゃんが寄ってきてくれたぶん、一層、充実感を味わったことが予想されます。

その後のことです。病院ごっこが、終息に向かいだした頃、「救急救命士」たちは、まだまだ続きがしたい感じでした。そこで彼らは考えました。せっかく制作した楕円形の帽子のテッペンに小さな羽をつけて、突然、「さんごくし」(ごっこ)を始めだしたのです(確かに、諸葛孔明はそんな帽子を被ってる)。「曹操」の名も登場します。どうやら「三国志モドキ」のアニメを模しているようで,アニメの世界だけに登場する人物もいて、数名の子どもが話題をわかちあって意気投合していました。さらに、そこから取っ手のついた丈夫な「盾」を制作する子が現れ、まさに「三国志」気分です。こんなふうにイメージしたものが、すぐに制作できる環境が、イメージする力をさらに高めます。相乗効果です。そして、何より、そこで子どもに寄り添い、子どもと共に楽しむ職員集団の風土こそ、子どもたちを“のびのび”と“たくましく”育むのです。