種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”24(なかはら)

≪ユナタン:24≫ at なかはらこども園

~ こだわりのゆくえ ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

「短時間」を長期間、続けたことが、もたらすもの
今年度、ぞう組の担任は、4月から運動会を意識していました。クラス活動の合間あいまで、2人組、3人組、6人組になって、子どもたちは、組体操の中味を相談しながら試したり、リレーや様々な競技で競ったり、“下ごしらえ”を充分していました。
短時間のルーティン活動なら、価値のある教育時間だと解して良いと思います。

子どもたちは練習させられている気分ではなくて、その日、その時を満喫しているようでした。そんな積み重ねがあったせいか、園内が運動会モードに入った9月、既に、佳境に入っている感がありました。担任にも余裕ができます。ということは、子どもたちも、あれこれと創意を発揮し、その日、したい種目をリクエストします。「主体性」の中味や「練習」の質が、変化します。そして、当然ですが。毎日まいにち、時間があると「やりたい!」「またやろう!」の声があふれ、活気のある状態が続いたのでした。

話し合いを深めることで広がるもの
9月になって、練習をした後は、毎回、必ず、振り返りを行なっていました。振り返りと言えば、先生が何かを諭すイメージが強いですが、そうではなくて、当初、友達の“良い所探し”をしていました。結果的にクラス全体が心地よい雰囲気に包まれます。
そのうち、練習前にホワイトボードを使って“ぞう組プチ会議”と称して、その日の練習のポイントをみんなで考えて意見を出し合う時間が生れました。このような仕掛けや仕組みによって、クラス全体の空気が変わります。端的にいえば、勝ち負けに対する“執着心”が底上げされていきます。これを良い事と捉えます。さらに、個々の子どもの勝ち負けに対する意識や意欲の温度差が、手に取るようによく感じられるのです。

そんな中、A君の勝負に対する“こだわり”はどんどん強くなってきました。何としても勝ちたい!という気持ちは強く、チームメイトにも“檄”を飛ばします。しかし、負けたとき、「○○くんが遅いからから負けた!」とは決して口にせず、ひとり、泣き崩れて、「もう!もう!」と大きな声で叫び、地団駄をふんで悔しがっていました。
たぶん“良い所探し”をしたり“プチ会議”を設けたりしたことで、A君の勝ちにこだわる気持ちは、一層、高揚(向上)したように思います。それが言動に現れ、友達へのかかわり方にも大きな影響を及ぼしたと考えられます。
担任の個別レッスンタイムが引き出したもの
もう一人のB君は、さほど勝敗を気にしていないように見えました(もしかしてB君は苦手意識があったので、あえて気にしていないように振る舞ったのかもしれません)。
リレーやジャンプを要する棒競技は、毎回、くじ引きでチームを決めます。ですから、A君とB君は、いっしょのチームになったり、ならなかったり、くじ引きしだいです。けれども、対戦をくり返していると、A君のチームが負けたとき、そこにB君がいることが多く、負けん気の強いA君はそれに気づいたようでした。

全体の練習が終了した後、レベルアップした状態に追いつくように、お休みしていた子などを担任が個別に関わる日常ができていました。担任がB君と話をしている最中、突然、A君がやってきて「おれが おしえたるわ。きて!」と言って、B君の手を引いて“ぞう組プチ会議”で使用しているホワイトボードの前へ連れていきました。
ホワイトボードには、棒競技の競技図が描かれてあり、「このコーンをちいさくまわるねん」「からだをこうしてまげて」「B君、やってみて」と、図を見ながら実際に棒を
使ってコーンのまわり方や体の使い方を“指導”する姿がありました。

「短時間」を長期間、続けたことが、もたらしたもの
A君による指導はさらに続きます。「つぎは、リレーな。おしえてあげるから、給食、はやくたべてきてな」というと、B君は「うん、わかった!」と嬉しそうな表情になり、いつもゆっくりとご飯を食べるB君は、その日、驚くような速さで食べ終わり、A君のもとへ走って行ったのです。A君は、自分の自由画帳と色鉛筆を持ってきて、リレーの競技図を描き、「ここでバトンもらうやろ、そしたらここにくるねん!」とインコースに入ることを説明します。そして、走るときは、足をあげる事、腕を振る事、を伝え、B君を走らせ、自分も走ってみせて、2人は伴走しながら、“あれや”“これや”と言いながら、結局、その日は、お昼の時間、ず~っと、2人で練習していました。

翌朝のこと、B君はA君を捕まえて「昨日 家で 走る練習した」と報告し、遊戯室で実際に走って見せました。「めっちゃ!スゴイ!!」とA君は称賛し、それに対してB君はA君に「ありがとう」とお礼を言って、その後も2人の会話は続いていました。

昔の青春ドラマさながらのドキュメントです。もし、4月から、連日、短時間、運動会を意識した活動をしていなかったら‥、“ぞう組プチ会議”がなかったら…、このような2人の姿は、現れ出なかったように思います。当日、競技は、A君B君は同じチームで負け、リレーはA君のチームが勝ち、B君のチームは負けました。運動会が終わった今、2人の心の中で舞っているのは、何でしょう。【資料提供:宮﨑友喜】