種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”26(世田谷はっと)

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~ 追っ掛けドキュメンテーション ~

平成28年10月21日 片山喜章(理事長)

今年度はじめ、みなさまに「いくつかの取り組み」について説明いたしました。そのなかの1つに、5歳児つばさ組の子どもたちによる「誕生会プロジェクト」があります。ご存知?のように、毎月、5~6人の子どもたちが担任以外の先生とともに数回にわたって「企画会議?」を開催し、誕生会全体を運営するというコンセプトです。そこでくりひろげられた「フォト入りのドキュメンテーション」は、玄関のテーブルに置いていますから、これを機にぜひ!お目通しください。今回は、【山田寿江】【上迫まなみ】の2人の主任が、2歳児はっぱ組のA君の姿を追いました。つばさ組の子どものための「誕生会プロジェクト」がもたらした“異年齢効果”の一例です。2人が綴った原稿をほぼそのままの形で編集しました。(A君のお母様には確認・掲載承諾済です)

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7月の「乳児誕生会」でのこと…‥前日の「幼児誕生会」で、5歳児が劇を発表しました。翌日の「乳児誕生会」でも同じ劇を発表したところ、子ガニ役として劇に参加し始めた2歳児はっぱ組A君は、前日に一度しか見ていないにもかかわらず、物おじせずに役になりきって演じる姿に驚きました。そこで、4月に遡りA君の姿を追いかけました。(※はっぱ組は「幼児誕生会」と翌日の「乳児誕生会」の2回参加します。つばさ組のプロジェクト担当も2回、出演します)

1歳児の頃のA君は、興味を抱いたものにはとことん関わる姿がみられました。お散歩前は、エントランスでタオルの入っている扉をひたすら開け閉め。移行期に2階の幼児のお部屋に行く頃は、トイレの扉に興味津々でくり返しトイレに入ったり、出たり、夢中でした。そんな行動を制止すると激しく泣いて抵抗することもあり、全クラスの職員がそんなAくんの様子をそっと見守り続けていました。体格も良く、目立った行動が多いので、幼児クラスの子どもたちからも「Aちゃん」「Aちゃん」と呼ばれて気にかけてくれる、可愛がられる存在でもありました。

 

2歳児はっぱ組になってからのA君の誕生会での姿

4月の「幼児誕生日会」はっぱ組になって初めてです。2歳児はっぱ組は、マットに座って参加するのですが、1人だけイスに臆せず座り“これから何が始まるの?”と楽しみにしていました。途中で飽きて顔を下に向け、終始落ち着かない。しかし5歳児の劇“にんじんさんがあかいわけ”が始まると目はキラキラ。翌日の「乳児クラス誕生会」、(2歳児が「乳児誕生会」に参加すると、0・1歳児の子が2歳児を見て落ち着き、2歳児もお兄さん・お姉さん気分。異年齢同士のかかわの成果です)。4月はまだ、5歳児が舞台で演じる様子を見て楽しむだけのAくんでした。

5月の「幼児誕生会」、5歳児の出し物はハンドベルとピアニカ“かえるのうた”と劇“はなさかじいさん”。誕生会が始まると、しばらくつまらなそうに下を向いたり、そわそわしたり・・・。でも、ハンドベルの演奏が終わると静かに拍手。“はなさかじいさん”の劇が始まると、盛り上がるシーンでは手で目を隠したり、声を上げたり…とても楽しそうに見ていました。

6月の「幼児誕生会」もいつも通り?3歳児と一緒に椅子に座って参加。自分のクラスの誕生児が舞台で受け応えしていると、じっーと見入っています。でも出し物の“なぞなぞ”と大きな絵本になると興味をなくし、後ろにいた保育士の方を何度も振り返り、カメラに向かってポーズ。

7月7日の七夕会では、職員が“織姫と彦星”の劇を発表しました。笑顔で楽しそうに劇を見ています。時には、真剣な表情も…。そして、天の川が登場すると少しずつ動き出し“いまだっ!”と思ったのか前に登場しました。職員と一緒になって、天の川役に徹します。たくさんの観客=子どもたちも“Aちゃんらしい”と応援し、A君は最後まで喜んで参加していました。その月の「幼児誕生会」では、やはり3歳児クラスと一緒にイスに座って参加していましたが、今回は2列目に座っています。自分のクラスの誕生児が舞台に上がるとジッーと見て拍手。でも、ピアニカの“チューリップ・メリーさんのひつじ”には興味がないようで、上を向いたり、ボッーとしたり。しかし、劇になると一変しました。“さるかにがっせん”が始まった途端、グ~ンとテンションが上がり始め、拍手をしたり、笑ったりと劇に興じる姿が見られました。

そして、この翌日、7月の「乳児誕生会」が始まる前、自分の居場所が見つからずウロウロして、やっと先生の膝の上に落ち着きます。しかし、長くは続かず、しばらくすると床に寝転がりまたゴロゴロ…。前日、同様“さるかにがっせん”が始まります。サル役(この役は先生)が出始めたとき、少しずつ体を起こし始め… 遂に、子ガニ役になって舞台に登場! 他の役を演じるつばさ組の子と一緒に逃げ回り、サルに柿をぶつけられたシーンでは、一緒に倒れます。前日、一度しかみていないにもかかわらず、劇の流れや動きをバッチリ知っているようでした。A君がサプライズで舞台にあがり演じる姿に、いっしょに演じるつばさ組の子は、もちろん職員も、はっぱ組の友達も、観客もみんなが温かい目でA君の様子を見守ります。5歳児が演じる舞台でも、先生たちも5歳児も誰も『駄目だよ!』言わないし、不快な顔をしないのです。子ガニ役を演じきって、最後の挨拶も並んで礼までしました。演じきったA君の表情は、それは、それは、キラキラしていました。

8月の「幼児誕生会」の出し物は手遊び・歌“おばけなんてないさ”劇“カチカチ山”でした。会が始まる前は、2階の入り口の階段の柵扉をガタガタと揺らし全く興味のない様子。ところが、劇が始まった途端に、前のめりになって舞台に釘づけです。目をキラキラさせて、飛び上がりながら喜んでいます。そして、前回よりも真剣な表情でした。この時、まさに、見て学んでいたのです。この経験が、次の日の「乳児誕生会」で発揮されることになるのです! そして! 翌日の「乳児誕生会」、この日は、最初から劇に参加することを決意していたのか、前方のサークルベンチにどっしり座って、じっと待っていました。“おばけなんてないさ”の歌に合わせて大きなお化けが登場したので思わず立ち上がり、昨日も見たぞ!知ってるぞ、と言った風のA君でした。劇が始まると、たぬきが畑をいたずらするシーンで大興奮。たぬきがいたずらをしておじいさんに追いかけられるシーンでは、今か今かと出るタイミングを伺っているような様子のA君。そして、たぬきが捕まるところで、たぬき役として登場! たぬきが捕まるイスに座って、一緒に捕まります。おばあさんをだまして、逃げ出す場面ではうさぎ役にチェンジ。泣いているおじいさん役の保育士を見つめます。うさぎが石を取りに行くシーンでは、なぜかマットの陰に隠れます。そして、泥船に乗って川を渡るシーンでは、初めは自分も船を持って行こうと動きますが、舟がないことに気付き…青いビニールシートを持って「ザブーン、ザブーン」とアドリブでセリフまで言って川役になりました。A君からアドリブで、セリフが飛び出したことにとても驚きました。お母さんも普段の保育園でのA君の姿をありのまま受け止めて、園に全面的に信頼をよせて下さっています。A君の劇への参加の様子をお母さんに伝えると、「秩序を乱してませんか?」と心配されていたので、「秩序を乱すようなことがあれば止めます」と話しました。A君の場合、絶妙なタイミングで、劇のどの場面で登場したら良いのかを見計らって出てきましたから、劇の邪魔することはなかったのです。そして、劇をしていた5歳児も先生たちもごく自然にA君の登場を受け入れて、A君は、心地よく演じ続けていたのでした。

9月はA君の誕生月です。果たしてA君はどんな姿を見せてくれるのでしょう。前日にクラスの保育室でみんなの前でイスに座り、お誕生日の歌をうたってもらったA君は、恥ずかしさや緊張からか、顔がこわばり天井を見上げたり、イスから落ちそうになったり…。よほど緊張したのか、(ナント)誕生会当日は熱が出てお休みしました。そして、次の日に行われた「乳児誕生会」では…。いつもと違う雰囲気を肌で感じ取っているのか、何だか浮かない表情でした。そして、自分の名前が呼ばれても、なかなか出て来られず。保育士が抱っこして登場し、離れようとしません。普段、滅多に見ることがないその姿に私たちは驚きました。司会者の質問にも、口を閉ざしたまま何も答えません。やっと解放され、元の場所に戻ることができたA君は、半べそ状態でした。しかし、つばさ組のマジックが始まると、表情も和らいで、誕生会が終わってサーキットに移動する頃には、いつものA君に戻っていました。

いつにない緊張感からシャイな姿を見せたA君、9月の誕生会の様子から「運動会」ではどんな姿を表わしてくれるだろうか、と職員の間で話題になりました。「運動会」では、はっぱ組の数人が、かけっこが楽しくて2回走りたい!と、再びスタートのイスへ行こうとしました。A君もその一人でした。運動会を楽しむ姿は、2歳児らしく、協技もはつらつとした笑顔で参加していました。この時も予想に反し?自然体のAくんに驚きを覚えつつ大きな成長も感じていました。

10月の「幼児誕生会」、前月、お休みだったので、舞台に上がることを予感したA君は。緊張の面持ちでイスに座っています。いざ、名前を呼ばれても、立ち上がることができません。同じクラスのC君に促されて、舞台へ進みました。舞台前の段で腰掛けます。…が、司会の先生に手を引かれ、しり込みしながらも誕生児席のベンチに座りました。みんなが注目している舞台の上です。正面は向かず、盛んに天井を指さして「あっ!あっ!」と何かを訴えているようです。指差す先を見上げていました。「A君には、何か見えるようですね~」と司会者の気を利かせた言葉に会場がどっと笑いに包まれました。「Aちゃんは、どんな遊びが好き?」とインタビューされ、上空を指さしながら、消え入るような声で「消防車」と答えました。“ハッピーバースデー”の歌をみんなからプレゼントされ、ホッとした表情で舞台から降りてきたA君は席に戻ると、劇“シンデレラ”を静かに見ていました。翌日の乳児誕生会でも、以前のように参加しようとする行動は見られず、誕生会を終えました。

昨年10月に弟が生まれ、弟の存在を意識し始めた頃、お母さんを求めて泣くことがありました。毎朝「こっちの道がいい」とお母さんを振り回しながらの登園。夏は、セミの抜け殻を探しながら来ることで、いくらかスムーズに登園できるようになったとのことです。A君なりの葛藤を通して徐々に弟を受け入れることができるようになっていったのでしょう。この半年余り、誕生会や様々な行事を通して、突出して目立った行動をするA君に変化があったことは明らかでした。

先日の保育参加の日、異年齢での散歩では、友達と手をつなぎ人数確認の列に並んで静かに座って待っています。傍らで、そっと見守るお母さんは「“何でいるんだ?”って顔をしてるんですよね~」と嬉しそうに見守っています。その時、お兄ちゃんとしての自分を思い描いて行動しているようにも見えました。どこか誇らしげで、その表情は、きりりとしまっていました。(了)

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というエピソードでした。はっと保育園は、2歳児も幼児クラスとともに異年齢で生活する場面があります。誕生会の出し物企画は、5歳児つばさ組の子どもたちは担任以外の先生と何度か話し合いをして、当日を迎えます。グループ別のクラス保育ですが、A君はその影響を受けて、幼児誕生会の舞台でも翌日の乳児誕生会の舞台でも出演者になりきろうとします。また、つばさ組の出し物に触発されて、自然発生的に4歳児そら組の子どもたちが、「金の斧・銀の斧」の劇をはじめた事もあります。1つの空間に異年齢児がともに過ごすだけでなく互いに影響をあたえって、時を経て、遊びや学びが広がる事もまた「異年齢保育」といえるでしょう。

また、A君のような突出した行動を良く思わないのが、日本の保育や教育の実情です。ということは、日本全体を覆う風土です。悪い子とは評価しませんが、誕生会のような場面では制止するのが一般的です。職員間でも葛藤がないことはありません。しかし職員以上につばさ組をはじめ子ども集団がA君という個性を理解して受容していることに驚きます。運動会本番や練習期間を見ていても、個々においては、温和で、ひ弱な面を持つ子が少なくはありません。けれども何か協同的な事をする! となると、自分の考えや思いを出し合って、子どもたちが主導で創りあげようとする「集団(子ども社会)」になります。今後も「誕生会プロジェクト」の話し合い時の会話の内容まで記述した「ドキュメンテーション」を作りながら、子どもに寄り添うマインドを一層、豊かにしていくことが職員集団のテーマです。それが、この園の特徴になりつつあると思います。