週刊メッセージ“ユナタン”13
~ 立体思考で教育実践 ~
平成28年4月4日 片山喜章(理事長)
昨年12月に一旦休止していた≪ユナタン≫が戻ってきました。これまで法人7園に対して、毎週まいしゅう、同一内容のメッセージを届けてきました(HPに掲載)。が、地域も園文化も保育環境も、各園、異なりますから、的がしぼりつらい面もありました。
今回から「月2回」の配布にし、そのうち1回は、実際に「その園で在った出来事」や「実際の子どもの姿や保育者のかかわり」について、各園から報告を受けて、それをいっしょに読み解いていくことにいたします。はっとこども園の場合、毎月3日と18日の発行予定となります。
この≪ユナタン≫が「乳幼児期の教育・保育」「子どもの行動の意味理解」において、保護者の皆様と“分かち合いのツール”になることを望んでいます。また、各園において、これまで、「ユナタン会議」と称して、小グループで「メッセージ文」を読み合わせて「対話」し「考察」し、各園各様に園内研修を実施していました。今後も引き続き実施されると思います。
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日本の国ほど「望ましい保育」、「優れた乳幼児教育」のイメージに対して、曖昧な国はないと痛感しています。日本人全体の自己主張力や自己決定力の弱さと関連していると思われます。
例えば、4歳児で文字が読めように「教育」すること(たいていの子どもはできます)に対して「あまり意味がない」と考える一方で「できればそうしてほしい」と願う親御さんも結構、います。“心情、態度、意欲を育むことが乳幼児教育の基本”“探究心や判断力を身に着けることが大切”“自分の身を守る術を体得することが大事”、それらが“教育の本来の目的”であると教育関係者の多くは訴えてきました。確かにそうです。これらは「暗記力」や「知識をふやす」ことよりも、はるかに重要であることくらい、少し冷静に考えれば誰もが理解できることです。
と言っても、「そんなキレイゴトを言っていたらウチの子は遅れるのでは・・」と本音の部分で納得できない“心配症”の大人が驚くほどいます。そして、その“病理”でもって、わが子に“いろいろ干渉”し、“あれこれ求める”現状も根強く残っています。
かつて文部科学大臣が学力低下を案じて「土曜日の休日返上も視野に入れては」「教科書を分厚くし授業時間を増やす」、それによって「学力の向上を図りたい」という旨の話をされた時は、さすがに臀部を強打するほどひっくり返ってしまいました。昨今は「アクティブ・ラーニング」が業界では“トレンド用語”になりつつありますが、私の中の「本音」は〔今ごろ、なにゆーてんねん、日本のエライ人たちは、ホント“子ども”を知らない。アクティブ・ラーニングも教師集団にチャレンジ精神と創意がなければ、ゆとり教育同様すぐにアウト!〕と囁いています。
「文字の読み書き」についていえば、「教えるか」「教えないか」という「平面思考」を脱して、保育室に「ひらがな」「カタカナ」「漢字」「英語」が意味とリンクする形で目に入る「環境」を用意することが幼児教育の基本だと考えます。また、文字を検索できるファイルをコーナー等に用意して、興味がわくとそこで調べて読んだり書いたりして結果的に覚える。あくまでもその子の主体に委ねて、意欲に応えられる環境を工夫しながら設定することが指導性であると捉える、そんな考え方を「平面思考」と対峙させて「立体思考」と私は表現しています。
「ピアニカ」「あやとり」「けん玉」「コマ回し」「縄跳び」などの技芸に関しても、全員一斉に「教える」のか「教えない」のか、といった「平面思考」を脱して、“やってみたい”と欲する子どもたちが集える「時間と場所」「集中して取り組める一定の期間」を設定する、それを子ども自身が「情報」として持っている、それが「立体思考」的な実践であると捉えています。
乳児保育においても「最新データ」によって導き出された「知見」をどんどん保育に活かす取り組みをすすめています。折に触れ、具体例を紹介しますが、「赤ちゃんの有能性に関する研究」はスゴイ! 私事ですが、かわゆい孫(女)は、ほんとうに愛しいゆえにゼロ歳児として、この4月から認可保育園で保育を受けています。母親が家庭でどんなに“ていねい”に育児するより、少々寂しく辛く、厳しい出来事に遭遇しても、我慢を強いられても、玩具という探究対象があり、たくさんの仲間や先生たちとともに過ごす環境には及ばない、人間の子どもはそんなふうにできている、と実感していた祖父(私)の想いは、最新の「知見」によって支持され出しました。
また、母親(嫁)に対しても、父親(息子)と同じようにひとりの人間として、社会に参画し、そこで活躍する権利を奪ってはならないのは至極、当然のことだと思っています。。
幼保一体化がすすむ中、昨今の国会で、にわかに「子育て支援」「待機児童問題」がクローズアップされていますが、根っこのところで、国会議員さんなどは「3歳までは家庭で母親の下で育児されるのがその子のために良い」という「本音」を抱いていると察します。一方「はたらく女性のために子どもを預ける園の必要性」を訴えます。どちらも「乳幼児の能力」に畏敬の念を抱きながら「乳幼児の奥の深さ」と「教育の必要性」についてお勉強していただきたいものです。
「保育園を増設し、保育士の処遇を改善すべし、子どもにもっとお金をかける」ことは、直近の重要案件です。しかし、子どもの側にとってみれば、保育園での生活は子どもの発達のうえで欠かせないと言っても保育時間が長すぎます。せめて5時には帰路に付くべきだと考えます。
日本の「企業文化や体質」「労働観」「子どもの生活文化の保障問題」が極めて大問題です。
みなさんのご家庭で1週間に何度、一家団欒で食事をしますか? 各園で「調査」して「国策に反映させる!」 このような考え方もまた「立体思考」であると確信しています。