種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”16-①

ユナタン:16≫ at はっとこども園  

~ “その子らしさ”が育つ素敵な関係って? ~

平成28年5月18日  片山喜章(理事長)

今年度から2歳児なぎさ組は、0・1歳のおひさま組と同じ、1階の保育室で過ごしています。

これまで、2階の別館?で過ごしていたなぎさ組は、どちらかといえば、幼児クラスの影響を受けていたように思われます。今年度早々、こんな「ドラマ」がありました。

昼食準備が始まる前のランチルーム、なぎさ組のAちゃん、Bちゃんが遊んでいました。

ボールを取り出して、互いに転がしては追いかけたり、強く弾ませては視線を上下させて、捕まえに行ったり、2人にとってボールは、ワンダフルな玩具になりました。

けれども、好きな色にこだわって1つのボールを取り合ったり、弾力性のある方のボールを奪い合ったり、いかにも2歳児らしいマイルドなトラブルもコロコロしていました。

と、そこに、午前睡から目覚めたばかりの0歳児のCくんが、担任の先生に連れられてやってきたのです。Cくんは、寝起きでぐずぐずしていたらしく、担任は、気分転換をねらってランチルームに連れていくことにした、とのことです。ご機嫌斜めだったCくんの視界に入ったのは、いつも隣のお部屋にいる2歳児のお姉さん、Aちゃん、Bちゃんの姿、そして、ボールです。

お姉さんたちがボールであそぶ姿を眺め、そのうち、転がるボールに目を凝らし始めたので、担任とCくんは、とりあえずその場に座ることにしました。

と、そこに、コロ、コロ、コロ~とボールが転がってきたのです。Cくんの機嫌は一気によくなってボールに触れようと試みました。ボールを追いかけて来たAちゃんの足が止まります。

「どうしよう」「返してほしいなあ」とAちゃんの顔色はそう言っているのに、言葉に出せずに立ち尽くしたままの状態でした。Cくんは、ボールをなで、なでしたり、にぎ、にぎしたり、すっかり笑顔になって、とうとう声をあげて楽しさを現わすようになりました。

そして“エ~イ……”。Cくんが転がしたボールはゆっくり、ゆっくり、Aちゃんの方へ転がっていきました。「ん、やった~、ボールが戻ってきた!」とその瞬間、Aちゃんは感じたにちがいありません。担任は、「どうするだろう」「きっとまた自分で遊びはじめるだろう」と思って見ていると、なんと! Aちゃんは、ボールを拾うと、Cくんに返してあげるようにゆっくりと転がしたのです。Cくんは、Aちゃんお姉さんが転がしたボールを懸命に受け取ろうとします。

そして、今度は、目を輝かせ、明らかにAちゃんお姉さんをめがけて…“エ~イ!”

歳の差のあるAちゃんとCくんの2人は、2人で遊んでいると誰の目にもそう映りました。

これが、5月早々の2歳児の姿です。2歳児といえども、自分よりはるかに年下の子には“やさしさ”を現わすのでしょうか。私は、“やさしさ”とか“思いやり”という表現は適切ではないと考えます。“仕方ないから譲ってやるか~”という気になって、若干、自分を抑制したように感じます。もしもAちゃんとCくんが姉弟の関係だったらどうでしょう。もしかして、邪険にボールを奪い取ったかもしれません。なので、自然な自己抑制の賜物といえるでしょう。人間の内に潜む“やさしさ”は、自己抑制機能がつくりだした“宝物”なのかもしれません。

そしてそれから…、くりかえしCくんにボールを投げさせて遊んであげていたAちゃんは、すぐに飽きる頃かなと思いきや、今度は、ボールをバウンドさせて見せました。すると、Cくんは、声を発して喜びます。Cくんの喜ぶ姿に刺激されて、これはもう自己抑制ではなくて、ともに楽しもうと自己発揮しているようでした。「きゃッきゃ」と声を出し合って、なんども遊んで(あげて)いると、この2人の様子が気になったのか、とことことBちゃんが寄ってきました。

今度は、極自然な流れのなかでAちゃんとBちゃんがいっしょになって、Cくんを喜ばせようとします。それは「2人の共通の楽しみ」になっていました。“どんなことをしたらCくんは喜ぶだろう?”とこそこそ話し合って、Bちゃんは「お姉ちゃんがしてあげる、なっ」と言って、Cくんのボールを拝借し、Aちゃんと遊びモデルを見せようとします。すると、Cくんは不愉快な顔になり、すぐさま、それに気づいてボールを手渡します。まさに、「自分を出したり、抑えたり」、「発揮」と「抑制」が心の中でグラディエーションを描いているのが見え隠れします。

最初、AちゃんとBちゃんは、2人で1つのボールを使って遊ぶことは、ほとんどありませんでした。けれども、自分たちよりも年下のKくんが現れると、ボールよりもワンダフルな存在に映り、力を寄せ合っている姿が見て取れました。同年齢(クラス別)の友達どうしだと、張り合って、競い合って、盛り上がって、それなりに自分を出したり、引いたりしますが、異年齢の友達になると、待ってあげたり、貸してあげたり、手伝ってあげたり、喜ばせてあげたり、たまには、ウザイと邪険にしたとしても、おおくは、“率直に譲る”という“生き方”を経験します。

今回の2歳児の2人も間違いなく0歳児、1歳児の時、年上の子どもたちにかかわってもらったと思います。そのような経験があったからこそ、このような姿をみせてくれたのでしょう。

今年度、なぎさ組が1階に降りたことで、0歳児、1歳児の姿がかえって落ち着いたように感じます。AちゃんもBちゃんも、0歳児、1歳児の子どもとふれあう機会が増えました。一方、かもめ組の「お手伝い保育」「フリーデイ」において、3~5歳児にかかわってもらう日常もあります。こんなふうに年上、年下、同じクラス、若い先生、年配の先生、若そうにみえる先生等、多様多彩な関係を通して“その子らしさ”が作りだされるのだと思います。 【資料提供:溝上】

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ユナタン:16≫ at なかはらこども園  

~ 自己主張(自分らしさ)をつくりだす少人数保育 ~

平成28年5月20日  片山喜章(理事長)

 なかはらこども園には、148名の子どもが在籍しています。幼児クラスと3.4.5歳児は、それぞれ1クラス30名強の子どもが居ます。この集団規模で、個々の子どもが自分を発揮しながら友達と協同して、学びを深め、心地良く園生活を送るには、やわらかな英知と観察力、そして工夫する力(仕掛けや仕組みづくり)が、保育者集団には必要で、日々、挑戦しています。

小中学校においても「アクティブラーニング」の名のもとに少しずつですが、「子ども集団が1人の教師に教えられる関係」から「子どもどうしの学び合う関係」にシフトされつつあります。そして、教師や保育者には、子どもどうしがかかわり合って、学び合えるような「環境」を用意したり、それにふさわしいテーマを投げかけたりすることが求められています。

実際、なかはらこども園では、子どもどうしが課題に出会い、トラブルになったとき、できるだけ「保育者」に頼らず、子どもたちどうしで解決できるように「ハッピーテーブル」のように子どもどうしで話し合う“公式の場”を設けて、子どもたちもその使い方を会得しています。また、普段の保育も極力、小グループを中心に実践しようと努めています。

5月の連休明け、4歳児くま組のエピソードです。

今回、「当番活動」のためのグループをつくることになりました。1グループ5、6名ずつの合計6グループができました。まずはじめ、それぞれのグループが、それぞれグループのなかで、グループ名を決めるという活動からはじめました。

Aちゃんが「きつねグループがいい」と提案しました。すると、「え~、きつね?おうどんみたい」と笑って、Bちゃんを筆頭に他の子たちは、反対しました。しかし「きつねがいい!」というAちゃんの勢いに押されて、何となく“Aちゃんのきつね案でもいいか~”と賛同する子が増えて、それで決まりそうな雰囲気になりました。そして、話し合ううちに、とうとう反対するのは、Bちゃんだけになってしまいました。Bちゃんは、はじめは、自分と同じように反対していた仲間が、次々に賛成にまわることに“悔しさ”を隠しきれずにいました。

私はこの気持ちがすごく理解できます。同じ仲間が「味方」から「敵」に感じる瞬間です。

と、そこに、普段トラブルを避け、みんなの前ではあまり意見を述べない同じグループのCくんが、この状況に何かを感じて「提案」をしだしたのです。担任は少し意外な感じがして、グループの仲間も同じように驚いて、みんなの意識がさっとC君の方に集中しました。

C君は「これではいつまでたっても決まらないので、Bちゃん対、他4名でじゃんけんして決定しようよ」と提案したのです。少しの沈黙があって、Bちゃんは、吹っ切れた表情で、「しんどいから、もういい、もういいわ…」と言いました。Bちゃんは、最初味方だった仲間が、それこそきつねにつままれたように、「Aちゃん案」に流れていくなかで、C君が彼なりの「解決案」だしてくれたことが、何となくうれしかったのではないかと感じられました。

そこで、担任の先生は「Bちゃんは、ほんとうにそれでいいの?」と念を押しました。Bちゃんは微かにためらって、そして頷きました。(Bちゃんは日頃、自分を通すことが多いので・・)

さて、その次の活動です。「グループの名前」と「メンバーの名前」を表記する「台紙の色」について、話し合いで決めることになりました。グループのメンバーはそれぞれ思い思いに色の名前を口にします。Bちゃんも「むらさき」と自分の好きな色を言いました。

もしもこれを30名のクラス全体で一斉にしたなら、どうなるでしょう。あちこちからいろいろな色があふれ出て、声をあらげることを楽しむ子もいて、収拾がつかず、担任は「静かに!」と、一喝することさえ予想されます。「1人の担任が居て、そこに多くの子どもがいる状況」では「名前決め」の名の下に“わいわい”大声を出し合うことが楽しくなって、いわゆる「思考停止」の雰囲気に流れやすくなります(これがいままでの一般的な教室、保育室の風景です)。

けれども、5人のグループであれば、解決の主役が自分たちですから、いつまでもわいわい言うわけにはいかず、なんとかまとめようと努めます。このときの話し合いでもまた、最終的に、Bちゃんの“むらさき”とその他の子どもの“きいろ”が対決する形に至ったのです。

どのように決めるだろう、担任が静観していると、Bちゃんがはっきり切り出しました。

「さっきは、私が我慢したから、今度は、“むらさき”にしたい!」と主張し、他の仲間は少し考えました。それぞれが、それぞれの顔を見合って「どうしよう?」という表情に変わります。

そこでまた、C君が「“むらさき”でいいやん」と口を出し、周りの子どもたちも「そうそう、“むらさき”にしよう」と納得というより、Bちゃん、C君の勢いを受け入れて“むらさき”に決定しました。私はここに、日本人特有の“妥協力”“オモイヤリ”を感じてしまいました。

A、B、C、それぞれ主張しました。日本の場合、「意見を出し合いなさい」と言いつつ、自己主張が強いと「譲りなさい」「少しは抑えなさい」と諭す教育者や良識のある大人が多いのです。この是非については、日本社会全体の風土ですから、今はなんとも言えないところがあります。

けれども、C君のように、ここ1番で自分の感じた事、考えた事を主張することで困難を解決に導く一助になる考える思考方法は、民主主義の原動力になり、これからの日本社会全体に欠かせない(新しい)人格であり、教育、保育の中心課題になると思います。 【資料提供:伊勢】

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ユナタン:16≫ at ななこども園    

  ~ 「だれがするの?」 「ありがとう、やんか!」 ~

平成28年5月22日:片山喜章(理事長)

ご存知のようにななこども園では「お当番活動」を「集団作り」の1つの手立てとして大切に考えています。2歳児うめ組の子どもたちも「おとうばん」を意識しています。1グループ4人~6人、それぞれのグループに日替わりで1人のお当番が居て、「出席調べ」から「食事の際の配膳、盛り付け」もお当番さんが中心になってグループを“機能”させる生活を送っています。今回、連休前のおやつの時間のことでした。4歳児あさがお組のお部屋です。

この日の「お当番」だったA君が、早迎えで降園したので“おやつの当番”をする人がいなくなりました。同じグループのBちゃん、Cちゃん、Dちゃんは、この事態にすぐに気づいて、「だれがするの?」と相談しはじめたのです。そして、3人とも「したい」と主張します。

特に、CちゃんとDちゃんの勢いは凄まじく、Bちゃんは圧倒されて、すぐに黙ってしまいました。担任が、Bちゃんに気持ちを尋ねると「…したい…」と答えるけれども、Cちゃん、Dちゃんに対しては、なかなか自分からは言えず、伝えづらそうにしていました。

他のグループは、次々におやつの用意をします。3人に“焦り”が忍び込みます。そこで、業を煮やしたのか、Cちゃんが二人の手を引いて、部屋を出て、3歳児ゆり組の前のスペースで話し合いを始めたのです。担任は、隣で座って聞いていました。話を進めていくのは、Cちゃんでした。「じゃぁ、3人でする?」と、Cちゃんが持ちかけると「いや!」と返事するDちゃん。「Bちゃんは?」と尋ねられると、同じように「いや!」と答えます。さらに、Dちゃんは、Bちゃんに向かって「Dは一人でしたいの!」と語気を強めて訴えます。「そ~か~、Dちゃんは一人でしたいんだ」とCちゃんが共感すると、静かにうなずくDちゃんでした。

しかし、Dちゃんは、強く言い放つとすぐに黙ってしまいます。澱んだ沈黙に包まれます。そこで、担任の先生は「せんせいは、Bちゃんでも、Cちゃんでも、Dちゃんでも、3人でしてもいいけど・・・どうする?」と話しかけました。そばで気にかけていた違うグループのお当番のEちゃんが、その場にやってきて、「3人で、じゃんけんしたら」と提案しました。

「イヤだ!」「この話は自分たちのグループで決めることやから!」と、ここは3人が同じ気持ちになって、Eちゃんに伝えることができました。そこへまた、別のグループのFちゃんが「どうしたん?」と気にかけてくれました。特に、もじもじしているBちゃんとDちゃんに対して、「じゃ~、したいんだったら、“していい?”って、ちゃんとお願いしたらよいのに…」と少しイラッとして訴えます。担任がニンマリしてしまうような発言でした。

さらにFちゃんの言葉は続きます。「Dちゃんでいいの?」「Bちゃんが一人でしていいの?」と双方に尋問するように問いかけます。するとCちゃんが「じゃあ、Cはもういいから二人で決めて」と“降板宣言”をしました。思わぬ展開に担任が「本当にCちゃんいいの?」と確かめると「いいよ、いいよ。次のお当番の時頑張るから」とふっきれた表情で答えてくれました。“自分たちの気持ちを言えたし、Eちゃん、Fちゃんもわかってくれたし、それに速くしないとおやつが食べられない”。Cちゃんなりの決断かもしれません。「自己主張」をしっかりすることで、かえって「状況を感じ取る力」と「譲る気持ち」が育まれたのかもしれません。

ああだ、こうだと言い合う2人に、Cちゃんが「あのさ、なんでそんなにお当番したいの?」と理由を尋ねます。Dちゃんは“台を拭きたいから”、Bちゃんは“配るのが嬉しいから”と説明します。Cちゃんは、二人の返事に「そっか~」と共感して「どっちも気持ち分かるけど…でもどうする? 二人いっしょにするのは嫌なんやろ~?」と思案しはじめました。

すると今度は、Bちゃんが「じゃあ、Dちゃんでもいいよ」と言いだしました。

「え? いいの?」と、Cちゃんが反応し「いいの? 今日できないよ! あんなにやりたいって言っていたのに何でよくなったん?」と突っ込むと、Bちゃんは「だって、Dちゃんがしたいって言うから…」と応えます。Cちゃんは「えっ! Dちゃんがしたくても、Bちゃん、自分もしたい!って、言っていいねんよ。本当にOKなん?」と迫ると、Bちゃんは「うん、だって、Dちゃん、お当番上手やもん。私は今度するから」とかなりしっかり答えました。

CちゃんはBちゃんに「じゃー、ほんまにいいねんな!」と念を押し、「Dちゃん、BちゃんがOKなんやて~」と朗報を伝えます。Dちゃんは頷きます。それを見たCちゃんは、咄嗟に「ちがうやろ!」「ありがとう、やんか!」と口調を荒げて言うと、Dちゃんは「ありがとう」と言い、Bちゃんからは「いいよ」の言葉が返ってきました。そこでCちゃんは、まるでセンセイのように「Bちゃん、ありがとうな」とBちゃんを労い「あのなDちゃん、Bちゃんもしたかったんよ」と、Dちゃんを諭します…‥。「さあさあ、遅くなったから早くしよう!」というCちゃんの掛け声で、このグループの“おやつの用意”がはじまりました。

A君のかわりに「だれがするの」で揉めた当番活動。お当番をしたかったCちゃんは一応、納得して、諦めて、さらにBちゃんに“安易な妥協”をさせまいとし、それでも最後に譲ったBちゃんの気持ちを察して、黙って頷くDちゃんにかけた言葉、「ありがとう、やんか!」。

問題が生じて、突っ込んで話し合うと感情は高ぶります。日本社会には、これを避けたがる傾向があります。“安易な妥協”ではなく、とことん話し合いをすると、同じ結果でも“納得”が生まれます。私たちが子どもたちから学んだ一件でもありました。【資料提供:池 朝日】

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ユナタン:16≫ at 池田すみれこども園

~ 子どもが主役の「お誕生会」 ~

平成28年5月22日 片山喜章(理事長)

「お誕生会」は、こども園、幼稚園、保育園ではお馴染みの行事です。しかし大多数の園では、先生たちが事前に「出し物」を準備して、「司会進行」も行います。ごく「普通の事」だと誰もがそう思います。けれども、ここ「池田すみれ子ども園」では、5歳児において「子どもが主役プロジェクト」に挑んでいます。私とガッツあふれる担任たちが話し合って「子どもが企画進行する誕生会」と「やりきるクッキング(たこ焼き)」を4月から取り組みました。今回、「子どもが企画進行する4月の誕生会」のあらましと教育的な値打ちについて、あれこれ、お伝えします。

「子どもが主役」といっても、5歳児白組の子どもたち全員がいっしょに参加するやり方ではなくて(一斉方式の教育方法は日本の教育の弱点で課題です)、グループ活動として、じっくり話し合って企画しました。6名の子どもが4月の企画者になり、担当は(ここが肝心)担任ではなくて、乳児職員が輪番に行うことを原則にしています。できるだけいろんな先生と関わり合う方が(子どもも職員も)豊かになる、と考えるからです。毎朝、異年齢の6グループにわかれて“サークルタイム”を設けたり、コーナー&ゾーン保育を重視したりするのも、その現れです。

さらに(ここも肝心)、池田すみれのように施設が広く、乳幼児が上下にわかれて生活すると、どうしても乳児と幼児の職員交流がしづらくなります。乳幼児連携は、日本の多くの園で課題になっています。それを解消する手立てとしても、白組の6人の子どもたちは、乳児クラスのB先生と誕生会の2週間前から、お昼に時間を見つけては話し合いを繰り返していました。

B先生と子どもたちは、まず誕生児に質問(インタビュー)する内容を話し合って決めました。はじめは、たくさんの提案がなされましたが、「質問が多くなれば長くなる=それはよくない」という子どもの意見で4つに絞り込むことから始めました。そして“MCをするのは誰”と話は進みます。2人が“やりたい”と言って、結局、じゃんけんでA君に決定しましたが、リハを重ねるうちに、質問内容を覚える自信がイマイチのA君は、じゃんけんで負けたB君に“譲る”と言って辞退しました。「情けないな」と評価しないで、“やりたい”と意気込んだけど、実際、リハでやってみると、自分には荷が重いことを悟り、B君に譲ろうとしたA君の判断は、評価に値すると私は考えます。そして、各クラスの歌の紹介は、また別の子が担うことになりました。

さらに「ピアノは誰?」という話題では、Cちゃんから“憧れ”のOR先生の名前がでました。

「OR先生?」「できるかな?」「ピアノ、ヘタやで!」「無理ちゃうん?」とモメたのでした。

「早くお願いして、ちゃんと練習してもらおう」と決まって、早速、OR先生にお願いに行きました。OR先生も企画チームからのオファーですから、光栄な話であり、期待を裏切れないこともあって、その日から、ひたすら黙々と、猛特訓をはじめたのでした。

クラス別に歌をうたう順番は、些細な事も話し合って決定し、以前、好評だった「クイズ」は、「担任の先生に任せて、自分たちもクイズを楽しもう」と合意に至りました。誕生会で披露していた恒例の誕生児による“特技”は最後にして盛り上げよう!と話し合いも盛り上がります。

誕生会当日まで2週間、B先生は、可能な限り、お昼、集まって子どもたちと話し合いや練習をしました。「できるかな~?」と期待以上に不安が大きく、最初の頃「企画会議」を招集すると「おれら、まだ遊びたいけど~」と不満の声があがり、チ~ンと沈むこともありました。

しかし、話し合いを重ねるうちに「誕生会」は自分が企画するんだ、そんな主役意識が芽生えたのか、B先生と廊下ですれ違うと「せんせい 次いつ話するん!ずっと待ってんねんけど」と子どもたちは怒りを現わすほど意欲を出して、遂に「4月誕生会係り集まれ~!」と仕切る子どもが出て来て、B先生は大助かりです。以降、先生が子どもを頼りするようになりました。

当日、B先生がドキドキしながら企画の子どもたちと会場づくりをしていると、主任のS先生が「司会らしく蝶ネクタイでもつくってあげよう!」と魔法使いのようにササ~ッと作り上げて首筋につけて、すっかり司会者らしくなり、子どもたちのテンションはグンと上がりました。

「事後の振り返り」、それが教育として大事です。「誕生児が多いので質問は減らした方がよかった」「恥ずかしがって質問に答えない子にどう言えばよかったのか」「蝶ネクタイ、ありがたかった」。そして、最後に互いにメンバーを褒め合う言葉がどんどん出てきて、やわらかな気持ちになって達成感を分かち合いました。で、「次は10月、もっとがんばろ~」で締めました。

「園行事」を自分たちで担う。当日の司会だけをするものではなくて、どんな内容で、どんな手順で行うか、そこを任され、本番を委ねられる経験。メンバーが6人なので自分を発揮せざるをえなくなる。一方、このような保育は“アイデア倒れ”に陥って、結局、担当者の意向が強く出る可能性(危険性)があります。私たちは、2週間という期間の中で「準備の話の進め方」と「振り返りの方法と内容」に重点を置きました。また担任以外の乳児職員が、担当することで、その保育者も子どもたちも“新鮮な緊張感”に包まれて創意を発揮しやすくなると考えます。

自分たちが企画して、大勢の前で進行し、さらに「事後の振り返り」で互いに褒め合って終わった誕生会。他の白組の子どもたちは、次に自分が企画する時の事を考えながら見入ったにちがいありません。緑組、黄組のお客さんたちも、今までにはない“おもしろさ”を味わって、誕生児でなくても、小さな“主役意識”がプレゼントされたように思います。 (資料提供;馬場)