種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”21

     ≪ユナタン:21≫ in 種の会
~ オリンピック競技と運動会の主役 ~

平成28年9月9日  片山喜章(理事長)

運動会は、オリンピック同様、本番1度切りのものです。ですから“本番の雰囲気や盛り上がり”“種目のおもしろさ”“当日のわが子の姿”が、保護者の評価(結果)になります。
本番、力発揮できなかった子に対して担任は「練習中はすごく良かったんですけどね~」と、その子の保護者に慰めの言葉をかけることがあります。けれども、結果を一番気にしているのはその子自身かもしれません。親が落胆しすぎても、過度な慰めやフォローをするのも適切ではないと思います。「出来、不出来よりも、大勢の観客に応援してもらったワクワクドキドキ経験」に大きな教育的価値があると、再度、確認したいと思います。本番、その子が雰囲気に圧倒されて固まったとしても、その経験はその子のその後の成長において、きっと「宝物」になる、そんなふうに見通して、わが子を信じる親心が、21世紀型の教育ママのマインドだと思います。

ご存知のように、私自身、「運動会」に関する“すばらしい”図書を何冊も発刊しています。関係性を深める「種目内容」と子どもが最大限に力発揮できる「独自に開発した練習方法」が記されています。30年以上、毎年(今年も7回)、全国各地から講習会に招かれ、法人各園も、私に導かれて企画しています! と、こんなふうに事実を“誇示”すると不快に感じませんか?
謙遜することが美徳とされる日本の文化の中で、ここ1番で物怖じしない強い精神(日本人の苦手な分野)を育むには「謙虚」「控えめ」を美徳とする風土を見直す必要があると考えます。
現在の課題である「自己肯定感」や「自尊感情」を育むには「友達や自分の良いとこ探し」を教育・保育の要に据えて、世の中が後押しする、そんな風土づくりが必要であると考えます。
今後、ますますITに浸食される子どもたちが、“自分のがんばり”を臆せず堂々と語り、周囲はそれを是認する、そんな日常をつくりだす事が日本的課題だと思います。それが、その子の力を伸ばし、困難を乗り越える人格を形成していく……。日本の保育者や学校教師だけでなく、行政の慣習や企業文化においても、そうあるべきだ、と五輪を観戦していて強く感じました。

五輪出場をめざし、さらに、そこでメダルを取るためだけに自分を律し、体力の限界まで自分を追い込むことに最大級の生きがいを感じる(他方で人格崩壊の現実もあります)。ほんとうに人間とは、不思議な生き物です。より多くの人たちに称賛されたい。そのための必死の努力が、人格を磨くように思われます。“自分らしく生きる”とは、自分が社会から認められるために、多彩に“自分磨き”するといえるかもしれません。他方で、紛争地などで困窮した人たちを支援する献身的な生きざまもまた“人間らしさ”として敬服します。「では保育という仕事は、一体どっちだろう?」とふと我に返り、“わたしらしさ”を考える機会を得た五輪でもありました。
運動会の練習にはどんな意味があるのでしょう。バルーン演技では「一斉に戸外に出て振り付けを覚える」という日本の旧態依然とした練習方法を脱して「振り付けは動画を見て覚える」(子どもの覚える力は大人の数倍)⇒「自分たちが覚えたことを演技してみる」⇒「自分たちが演じたものを動画に撮る」⇒「動画を観て振り返り(対話)をする」というのが基本手順です。覚えたことを観てもらう以上に、子どもどうしで対話することが、これからの教育(保育)です。
その意味で法人各園は、時代を先取りしていますが、問われるのは「対話の内容」です。
これまで、自分たちの演技を動画で見て“不出来な部分”を子どもどうしが指摘し合う対話がありました。子どもどうしが指摘し合うと、先生は「助かる」という本音があります。しかし、友達のミスを言い合って完成させる過程は好ましいのかどうか、大きな疑問が出てきました。

最近、良かったところだけを互いに発言し合う対話が、よい成果をもたらすことがわかってきました。実際、自分たちの出来栄えを動画で見た後、「友達の良い所探し」をどんどん発言すると、子ども集団はぐんぐん明るくなります。友達どうしが互いに褒め合う経験は、友達(他者)に対して、寛容になる精神を育み、それはやがて自分を褒める(自己肯定)精神と根っこの部分で繋がっていくように思います。このような褒め合いのなかで、演技の完成度を上げるために、先生が指導!すると、子どもたちの改善意欲はぐんと高まり、好結果を出そうと奮闘します。

アートなどの世界も同じようなことがいえます。自分の作品を他者に認知(評価)されて、ようやく「表現」という範疇で扱われる時代になってきた感じがします。1、2歳児の製作活動は「探索活動(科学の心)」と考えます。4、5歳ともなれば、導入法はさておき、1つ1つの作品に対して、友達から褒められる合評会をしたり、その作品を額にいれて展示して、はじめて、その子どもの「表現」と考えるようになりました。幼児教育界に広がってほしい考え方です。

では、保育園(こども園)の子どもたちにとって、「運動会」は、どんな表現でしょう。
種の会オリジナルの練習法は「覚える」ことではなく、「覚えたモノで対話する(褒め合う)」と前述しました。本番、物怖じしないためにも、練習中、子どもどうしの褒め合いは有効です。
組体操の練習では、子どもどうしが、ぶつかり合い(激しい対話)を重ねます。練習のたびに葛藤したり納得したり、達成感を味わったり苦味を味わったり…。その経験の積み重ねによって、本番までに強い仲間意識が育まれる、そんな見通しをもった練習方法(教育方法)です。

最後に、本番、最も重要な役割を担うのは、観客です。全保護者が歓声を上げ、全種目、全園児に拍手や大声援を送っていただくことが大事です。五輪のメダリストたちは言います。
『日本のみなさんの熱い声援に後押しされて、メダルがとれました。感謝します』と。
みなさん、全園児を後押しして、全園児から感謝される存在になろうではありませんか!