種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”24(世田谷はっと)

     ≪ユナタン:24≫ at 世田谷はっと保育園

~ “でんしゃ”は、はしる、頻繁に ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

先日(10月15日)の運動会の2歳児“はっぱ組”の運動会種目です。

まず4人1組で走って中央の坂を駆け上がり、ジャンプします。それから前方にある左右2か所のマットまで走ります。そこまでは、4人4様のペースです。前方マットには大きなフープが1つ。そこで、4人が、2人ずつ左右に分かれてマットの上の大きなフープを2人で持ち上げて、1人が中に入って運転手さんになり、もう1人はフープの外側を握ってお客さんになります。そして2人は、前後1人ずつの“でんしゃ”になって戻ってくる種目です。当日は、トラブルもなくうまく前後に分かれて“でんしゃ”になって戻ってきました。一般的な2歳児にしては“高度”な内容だと思われます。

しかし、練習がスタートして本番に到着するまで、様々な風景がありました。

 

《いっしょに入って進むと楽しかったけど・・・》

この種目のみどころは、4人が色の帽子によって、2人ずつに分かれて、その場で、その時の相手とうまく折り合いをつけて“前(運転手さん)”と“後(車掌さん)”を担って、“でんしゃ”になって進むところです。練習がスタートした頃から本番直前まで、2人いっしょにフープの中に入って“でんしゃごっこ”をくりかえしていました。けれども、直径60センチのフープは、2歳児はっぱ組の子どもたちには大き過ぎました。4人で入ることができる大きさです。

“でんしゃごっこ”を始めて、まもない日のことです。その日までは2人いっしょにフープに入って進んでも“でんしゃ”は、すいすい動いていました。1人が子がリードし、もう1人がなんとなくリードされる姿。あるいは、フープが大きいので2人が横並びでフープの前を持ってフープの後ろ側が垂れ下ったままで進む姿など、それぞれが、それぞれに楽しんでいるようでした。そこでは、前か後かということに執着する姿はほとんど見られずトラブルになることもありませんでした。しかも、エンドレスでくりかえしてしていたので、前方のコーンを回って戻ってくるルールも会得していました

しかし、くりかえししていると芽生えるものがあります。自分が運転手さんになって相手の子をお客さんにしてしまう「執着心」です。また“でんしゃごっこ”を何度も何度もパートナーを変えていると奇妙な感覚を味わいます。1つのフープに2人で入ると、前でフープを握ると心地よく進み、後ろの位置では、前の友達にぶつかって、居心地の悪さを感じます。そんな事もあって、とうとうその日、トラブルが発生したのでした。

 

《譲れないのはわかるけど・・・》

長椅子を縦において、またいで座って待機し、順次、前に詰めていく設定ですから、2人は、自分でフープに入り、“でんしゃ”になるパートナーも理解できるのです。運転手さんとお客さんは、その場で、その子どもたちで取り決めてスタートします。

AくんとBくんがペアとなって、スタートしました。コーンに向かうまでは2人とも自分が先頭のように前のめりになり、コーンを折り返すところで、Aくんなのか、B君なのか、どちらが先に回るかで言い合いになりました。お互いに「こっちから」「コッチから」「ぼくが」「ボクが」と譲りませんでした。力も拮抗して綱引きになったり、背中合わせで引っ張り合ったり、その場から動かなくなりました。

すると、長椅子で順番待ちをしていたCくんが2人に駆け寄って「こっちにいくんだよ!」と仲裁に入りました。しかし、2人の声は大きく、気持ちも高ぶっていたので、Cくんの仲裁は無視されました。仕方なく席に戻ろうとしたCくんの横にDちゃんが駆け寄って、やさしく、「あのね、こっちから行けば良いんだよ」と声をかけました。2人に付き添われながら、“でんしゃ”は、前へ後へ左に右に少しずつ動いて、5分くらい時間を費やしてゴール。そして次の2人に交替。Aくんは大泣きしていました。先生は、2人の言い分を聞きながら、落ち着かせていました。そしてまた、Aくんの出番がまわってきたのです。今度のパートナーはEくんです。

 

《何度もくりかえしたから、こそ・・・》

1回目と同じように2人とも運転手気分でコーンまで進みました。しかし、コーンを折り返すところからAくんは後ろになり、「こっちからいくの?!」と晴れやかな顔で運転手になったEくんに声をかけました。Eくんに譲ってあげたのです。先生たちが和んでいると「今度は、けんかしてないねー」「ほんとによかったね~」と声がしました。仲裁にはいったCくんとDちゃんでした。2人ともホッとしたような笑顔で話をしていました。Aちゃんの変身ぶり、そしてこの2歳児の2人の会話は、何でしょう、ね。

日頃の園生活の賜物(↑)だと思いますが、練習方法にも起因します。私の練習コンセプトは「少人数化」「短時間」「エンドレス」です。勝敗を度外視してチーム数を増やして、エンドレスにして個々の経験量を増やし、1日5分~10分程度の短時間に収めるというものです。毎回、相手が変わり、前になったり後ろになったり、何度も何度もくりかえすうちに、当初は執着心を促し、その後、執着心から譲歩する精神を引き出すと考えているからです。短時間で何回も経験する方法は他のクラスでも採られました。

ただ、運動会当日、Fくんは終わって戻って再出発と思いきや、先生から制止され、とても不満そうだったことに申しわけなく思いましたが……。【資料提供:和田啓介】