種の会からのお知らせ

週刊メッセージ“ユナタン”28(はっと)

≪ユナタン:28≫ at はっとこども園
2歳児&5歳児「交流の日」の教育効果

平成28年12月26日   理事長 片山喜章

今年度、4月より毎週木曜日に、5歳児かもめ組と2歳児なぎさ組が交流を行なっています。きっかけは、2月の発表会の後からはじまる移行期保育で見られる2歳~5歳が交わる豊かな姿でした。ならば、4月から1年を通して定期的に行なうと、子どもたちはどんな姿になるだろう、と楽しみだったからです。夏頃まで、定番活動としてリトミック、二人組を組み合わせた「ふれあいあそび」をメインに行ないました。

4月、初めての「交流の日」、半数以上の2歳児は、物怖じし、先生にしがみつく子や隅っこで固まってしまう子もいました。「一緒にしよう」と、とびっきりの笑顔で誘いに行っても「いや!」と断わられ、かもめ組の子どもたちは、たいそうへこみ気味でした。そんな子どもたちの姿を見て、逆に「これからどんな風に変わっていくのだろう」と期待を膨らませる担任4人でした。 「交流の日」を重ねると互いに名前もしっかり覚え「一緒にしよう」から「○○くん、しよう」と名前を呼んで誘うようになり、交流会らしい雰囲気になりました。
30分間ほどの活動の中で微笑ましく手をつないだり、触れ合ったりしながら、徐々に、なぎさ組も楽しく参加し、かもめ組も得意気な表情を見せるようになってきました。

【2歳児a君の変化】
交流を重ねると、夕方、2歳児のお部屋に遊びに行きたいというかもめ組の子が増えてきました。かもめ組の子どもたちは、「交流の日」が始まる前になると 「今日は○○ちゃんと遊ぼうっと」など期待を込めて待つようになりました。活動内容を基本的に毎回、同じ内容にしていたために、かもめ組の子どもたちは見通しを持って、なぎさ組の子を支えることができます。優しく話しかけたり、ちから加減を考えたり、クラス活動では見られない姿が引き出されました(スゴイ!)。ある日、2人組の活動で、手をつながずに隅っこにいたなぎさ組のa君に対して、担任が手を引くと、その手を振りほどいて嫌がりました。しばらく観察していると、5歳児のBちゃん、Cちゃんが、a君を気にかけながら、楽しそうに遊んで見せたのでした。特に誘い込もうとはせずに、楽しそうにやって見せてくれる姿に、a君は、この2人の姿に見入っていました。

a君は、「交流の日」と聞くと顔が引きつるほどドキドキしていたようだった。「交流の日」は決まって隅っこでジッとみんなの様子を見て、5歳児が「aくん!」と誘いに来ると目をそらし、先生にしがみつき目に涙をためることが続きました。「交流の日」が終わったある日、5歳児が話し合っていました。
D「a君いっつもしてくれへんよな?」 E「誘ったら泣いちゃった」 F「よし!誰がa君と一番仲良くなれるか勝負しよう!」。そんな男児の会話を耳にしました。
その次の「交流の日」では、タイミングを見図り、そっと、近づいてみたり、a君の好きなものをリサーチしたり、嫌がるa君の近くであえて楽しそうに二人組遊びをして見せたり、と、5歳児の中で誰がa君の心をつかめるか、あの手,この手と試すことをクラスの子の何人かが楽しんでいるように見えました。
8月の「交流の日」は、フープを使った電車遊びをしました。毎回のように「a君!電車に乗る?」と声をかけるF君に対して、この日は少し考えてから、コクンとうなずいてフープの電車に乗ってくれました。
F君は、普段より慎重に運転手さんを務め、お客さんの満足度をあげていたようです。「すごい!a君が一緒に遊んでる」と.なぎさ組の担任は驚いて喜んでいると、他のかもめ組の子どもたちも同じように驚いたようです。a君の表情も少し和らぎ、この「電車」がきっかけで、大きく前進したのでした。なぎさ組が帰った後、「F君!すごいやん! a君、電車に乗ってたな」とクラスで大絶賛されたF君でした。

9月のお散歩の時も、F君は、「一緒に手をつなごう」と誘い、公園まで一緒に歩きました。表情は、ニコニコです。その日を境にお兄ちゃん好きになったa君は、他のかもめ組のお兄ちゃんとも園庭やお部屋でよく遊び、時には上手に甘えるようにもなりました。2歳児の子どもにとって、3つも年上のお兄ちゃんは怖い存在でもあります。けれども5歳児なりに、a君を気づかい、受容し、うまく誘いこんだことで、a君は心を開き5歳児の子どもたちは、a君とかかわる過程で、極自然に“やさしさ”が引き出されたのだと思います。

【5歳児、E君の異年齢児へのかかわりで変化した姿】
「交流の日」として、散歩に出掛ける前日、担任は子どもたちに「明日、なぎささんとお散歩行くよ」と伝えました。散歩当日の朝、「先生がいい」と、これまで5歳児と手を繋ぐことを頑なに拒否していたなぎさ組のg君に、E君は、「g君のかっこいい靴はどれかな~?」と職員顔負けの寄り添い方でさらっと誘い、靴を履かせて手を繋いでくれました。引率者たちはその様子を見て「すごい!」と魅了されました。5歳児のE君は3月生まれ。クラスではケンカをしても泣いてしまったり、あまり目立つ存在ではありません。E君にとって「交流の日」は、なぎさ組の子に頼られたり、先生たちに任されたりすることも多く、今も張り切っています。

この頃になると、かもめ組の中では「E君は、なぎさの子のお世話が一番上手だよね」「E君の周りにはいつもなぎささんいっぱいおるよな~」という声が聞かれるようになり、E君自身も「交流(の日)」によって自信をつけるたようです。みんなから「すごい!」と言われれば言われるほど、かかわり方や声のかけ方が巧みになっているように感じます。その頃来ていた実習生も「クラスでは怒ったり、泣いたりするE君なのに交流の日はいい顔ですね。話し方や誘い方が、私よりも上手で勉強になりました」と話してくれるほどでした。
同年齢での顔、異年齢での顔。大きく異なる自己を発揮するE君にとって、「交流の日」は格別の意味があると思います。3歳児から5歳児の幼児の異年齢とはまた違う関係性が生まれているように実感しています。2歳児も5歳児も、同年齢では味わえない心情、言動、表情を現わしてくれます。

また担任も同年齢クラスだけの担任をしていると、子どもの見方が偏ってしまうことに気づきます。
今年度、1年を通して交流する中で、自分のクラスの子どもたちの成長や心の変化を、2歳児の担任も5歳児の担任も互いに同じように感じ取って、視野も話題も広がったことも収穫でした。先進国では当たり前の「異年齢児保育」 も日本の中では、まだまだ、少数派です。どんな社会も職場も異年齢集団なのに「教育界」だけ同年齢に偏っています、ここが日本の教育の課題でもあります。【資料提供:福田侑真】