週刊メッセージ“ユナタン”28(池田すみれ)
≪ユナタン:28≫ at 池田すみれこども園
1歳児でも子どもは子どもから学び育つ
平成28年12月22日 理事長 片山喜章
保育、特に乳児保育といえば、「先生は子どもをお世話する人」「子どもはお世話される人」という固定概念が社会一般に限らず、保育者のなかでもそう思う人がいます。その一方で昔から「集団作り」という保育理念があって、0歳児から集団が機能する、つまり、子どもどうしが影響をあたえ合いながら育っていくという考え方で実践している園もあります。
最近は保育者との愛着関係を基盤に、子どもどうしが学び合って育っていることが、脳科学の分野で明らかにされてきました。問題は保育者や保護者がそのような「事実」に気づいて、実践しているか、どうかです。もちろん池田すみれこども園の先生集団は、子どもは子どもからより多くを学び、子どもどうしが影響し合って育つことを基本認識として、理解しています…。
1歳児赤組のAくんは、とても活発で動くのが好きな男の子です。言葉も多く、お友だちとの関わりもたくさん見られます。しかしその一方で、自分の思い通りにならないと、すぐに泣き崩れてしまい、切り替えるのに時間がかかります。そんな時、先生たちは落ち着かせようとなだめたり、抱っこしたり、あの手この手でAくんにかかわります。そんなAくんの姿を見て、特にここ最近、周りの子どもたちの姿に変化が現れはじめました。
ある日、玩具の取り合いがあって(Aくんが横取り)、思い通りにならなくて泣き崩れてしまいました。担任はすぐに駆け寄らず、あえて少し様子を見ていました。すると、そこへBちゃん、Cくんが近づいてきて、Aくんの目をみながら、何やら慰める姿が見られました。あれだけ泣いていたのに、Aくんは泣き止みました。Bちゃん、Cくんとどんな会話をしたのか、言葉としてよく聞きとれなかったのですが、とにかく泣き止んだのです。これはAくん自身に「理解」や「納得」する気持ちが内側から生れたからだと思われます。脳の抑制機能がはたらいたのです。
駅やスーパーでダダをこねて泣きわめく我が子を、無視したり、怒鳴り散らしたりする母親の姿をよく見ます。悪循環になるのはわかっていても、どうすればよいのか、わからなくて困っている親はたくさんいると思います。叱られても恐ろしいだけで抑制機能は、はたらかないのです。
今回、Aくん自身の中にある“泣き止もうとする力(抑制機能)”を引き出したのは、お友だちです。Aくんが泣き崩れる姿をいつも、いつも見ていたBちゃん、Cくんは、Aくんのことをかわいそうに感じて近寄ったのだと思います。他者の痛みを感じて、何とかしてあげようとしたのだと思います。そんな2人のやさしさが伝わったからこそ、Aくんは「納得」して泣き止めたのでしょう。
Aくんは午睡明けに一番崩れやすく、通常、担任が一人ついて、落ち着くまで寄り添っています。ある日、いつものようにAくんはなかなか起きられず、ベッドで横になったままです。
そしていつものように担任が向おうとすると、先に仲の良いDくん、Eくんが近づいてきました。担任は、この前回の事もあったので、試しに「Aくん、起こしてあげて~」と言ってみました。すると2人は、Aくんのそばに行って、ベッドの左右に座り込んで担任がするように、Aくんをゆすって「おきて~」と起こし始めました。担任が言うより使命感をもって、「おきて~」と言い続けます
しばらく様子をみていると、Aくんがむくっと起きました。そのとたん、2人は「Aくん起きた~」と嬉しそうに言いました。Aくんもいつもとちがうパターンに新鮮さを感じたのか、泣き出すこともなくそのまま起きて着替えをはじめました。1歳児といえども、子どもが子どもをお世話する方がはるかに効果は高いことが伺えます。その光景に、担任も驚いて、日頃、言葉では理解している『子どもを育てるのは子ども』という文言がその瞬間、全身に浸み込んだ、とのことでした。
その後、三人は、なかよく手を繋いでトイレに向かいました。
また、サーキットに行くときのことです。Aくんは、サーキットに行くタイミングが遅れてしまい、手を繋ぐ相手がいなくて、「手を繋いで行きたかった」と訴えて泣いていました。サーキットをしている最中も涙は止まりません。すると、その姿を見て、Fちゃんがさっと駆け寄ってきました。何やら真剣な表情で話しかけています。それでもなかなか立ち直れないAくん。すると、EちゃんがDくんを手招きしました。そこへDくんがやってきて、二人でAくんを囲んでまた何やら真剣な表情で話をしています。その様子を担任はじっと観察し、見守っていました。
もし、観察していなければ、この場面では、「ちょっと、ちょっと、Aくん、Dくん、Fちゃん、そんなとこで、何してんの!」「いま、サーキットするときでしょ!」と注意してしまう可能性(危険性)があります。「子どもの行動にはすべて意味がある」のですから、その意味を観察しながら、理解するのが保育者(親)の務めです。注意や叱責するのは、理解し共感した後にする事です。
すると急にAくんの表情がぱっと明るくなり、三人でなかよくサーキットに向かう姿がみられました。そこで何が話し合われたのかはわかりません。しかし、保育者が寄り添ってなだめたり、促したりする方法とは別次元の、この1歳児の子どもたちどうしで通じる方法でやりとりしているのだと推されます。まだまだ大人の手助けが必要な1歳児ですが、担任たちは、改めて子どもどうしのかかわりあいによって子どもは学び育っていくことを目の当たりにしたとのことです。
このような子どもを観察し、見守って子どもの力を感じる体験は、大人の脳をも成長させていると、新たな(知見)は語っています。(オキシトシンで検索)【資料提供:西脇芽衣】