週刊メッセージ

週刊メッセージ“ユナタン”24(なかはら)

2017年1月6日 金曜日

≪ユナタン:24≫ at なかはらこども園

~ こだわりのゆくえ ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

「短時間」を長期間、続けたことが、もたらすもの
今年度、ぞう組の担任は、4月から運動会を意識していました。クラス活動の合間あいまで、2人組、3人組、6人組になって、子どもたちは、組体操の中味を相談しながら試したり、リレーや様々な競技で競ったり、“下ごしらえ”を充分していました。
短時間のルーティン活動なら、価値のある教育時間だと解して良いと思います。

子どもたちは練習させられている気分ではなくて、その日、その時を満喫しているようでした。そんな積み重ねがあったせいか、園内が運動会モードに入った9月、既に、佳境に入っている感がありました。担任にも余裕ができます。ということは、子どもたちも、あれこれと創意を発揮し、その日、したい種目をリクエストします。「主体性」の中味や「練習」の質が、変化します。そして、当然ですが。毎日まいにち、時間があると「やりたい!」「またやろう!」の声があふれ、活気のある状態が続いたのでした。

話し合いを深めることで広がるもの
9月になって、練習をした後は、毎回、必ず、振り返りを行なっていました。振り返りと言えば、先生が何かを諭すイメージが強いですが、そうではなくて、当初、友達の“良い所探し”をしていました。結果的にクラス全体が心地よい雰囲気に包まれます。
そのうち、練習前にホワイトボードを使って“ぞう組プチ会議”と称して、その日の練習のポイントをみんなで考えて意見を出し合う時間が生れました。このような仕掛けや仕組みによって、クラス全体の空気が変わります。端的にいえば、勝ち負けに対する“執着心”が底上げされていきます。これを良い事と捉えます。さらに、個々の子どもの勝ち負けに対する意識や意欲の温度差が、手に取るようによく感じられるのです。

そんな中、A君の勝負に対する“こだわり”はどんどん強くなってきました。何としても勝ちたい!という気持ちは強く、チームメイトにも“檄”を飛ばします。しかし、負けたとき、「○○くんが遅いからから負けた!」とは決して口にせず、ひとり、泣き崩れて、「もう!もう!」と大きな声で叫び、地団駄をふんで悔しがっていました。
たぶん“良い所探し”をしたり“プチ会議”を設けたりしたことで、A君の勝ちにこだわる気持ちは、一層、高揚(向上)したように思います。それが言動に現れ、友達へのかかわり方にも大きな影響を及ぼしたと考えられます。
担任の個別レッスンタイムが引き出したもの
もう一人のB君は、さほど勝敗を気にしていないように見えました(もしかしてB君は苦手意識があったので、あえて気にしていないように振る舞ったのかもしれません)。
リレーやジャンプを要する棒競技は、毎回、くじ引きでチームを決めます。ですから、A君とB君は、いっしょのチームになったり、ならなかったり、くじ引きしだいです。けれども、対戦をくり返していると、A君のチームが負けたとき、そこにB君がいることが多く、負けん気の強いA君はそれに気づいたようでした。

全体の練習が終了した後、レベルアップした状態に追いつくように、お休みしていた子などを担任が個別に関わる日常ができていました。担任がB君と話をしている最中、突然、A君がやってきて「おれが おしえたるわ。きて!」と言って、B君の手を引いて“ぞう組プチ会議”で使用しているホワイトボードの前へ連れていきました。
ホワイトボードには、棒競技の競技図が描かれてあり、「このコーンをちいさくまわるねん」「からだをこうしてまげて」「B君、やってみて」と、図を見ながら実際に棒を
使ってコーンのまわり方や体の使い方を“指導”する姿がありました。

「短時間」を長期間、続けたことが、もたらしたもの
A君による指導はさらに続きます。「つぎは、リレーな。おしえてあげるから、給食、はやくたべてきてな」というと、B君は「うん、わかった!」と嬉しそうな表情になり、いつもゆっくりとご飯を食べるB君は、その日、驚くような速さで食べ終わり、A君のもとへ走って行ったのです。A君は、自分の自由画帳と色鉛筆を持ってきて、リレーの競技図を描き、「ここでバトンもらうやろ、そしたらここにくるねん!」とインコースに入ることを説明します。そして、走るときは、足をあげる事、腕を振る事、を伝え、B君を走らせ、自分も走ってみせて、2人は伴走しながら、“あれや”“これや”と言いながら、結局、その日は、お昼の時間、ず~っと、2人で練習していました。

翌朝のこと、B君はA君を捕まえて「昨日 家で 走る練習した」と報告し、遊戯室で実際に走って見せました。「めっちゃ!スゴイ!!」とA君は称賛し、それに対してB君はA君に「ありがとう」とお礼を言って、その後も2人の会話は続いていました。

昔の青春ドラマさながらのドキュメントです。もし、4月から、連日、短時間、運動会を意識した活動をしていなかったら‥、“ぞう組プチ会議”がなかったら…、このような2人の姿は、現れ出なかったように思います。当日、競技は、A君B君は同じチームで負け、リレーはA君のチームが勝ち、B君のチームは負けました。運動会が終わった今、2人の心の中で舞っているのは、何でしょう。【資料提供:宮﨑友喜】

週刊メッセージ“ユナタン”24(なな)

2017年1月6日 金曜日

ユナタン:24≫ at ななこども園

~ いろんな気持ちをはめこんで ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

〈実はスゴイ、子どもの能力〉

4月当初から、2歳児うめ組の子どもたちは、コーナーあそびなどでよく“パズル”をしていました。登園してすぐ「パズルしていい?」というほどパズルに夢中です。

そこで新たにパズルを購入しました。真新しい“パズル”を見た子どもたちの目は、キラキラ輝いていましたが、購入したパズルの中にはレベルの高い物もありました。

「これする!」と喜び勇んで遊びだしたものの、難しくて「できない~」と途中で投げ出したり「せんせーやって~」と助けを求めてくる場面もありました。

先生たちも「難しいなぁ~」「こっちかな~?」などと話しかけながら、子どもと一緒に完成させていました(60ピースの物は本当に難しくて、2歳児向けではなかったかなと後悔しかけていました)。ところが! 子どもたちは来る日も、来る日も、その難しいパズルに挑戦します。「できない~」「てつだってー」と毎日、毎日、挑戦しているうちに、とうとう! 一人、そして二人・・・と完成させる子が出てきたのでした。

おそらく子どもの目に映る“パズル”の形は、大人が感じる形と異なるのでしょう。さらに、先生が完成させるに至った過程を凝視できているのでしょう。この2歳児の子どもたちの能力の高さについて、大人社会はどれほど認識できているか、気になるところです。「発達」「成長」の概念の見直しが必要だと感じました。

〈やっぱり、すごい、保育の力〉

ある日、「むずかしい!」「できない~」の声が聞こえてくると、出来るようになった子どもたちが“出番!”と言わんばかりに「てつだったろうかー」と集まってきました。手伝うつもりが途中から自分が夢中になり、自分で仕上げてしまったり…、大勢が集まって来てくると、最後のピースを自分がしたくて両手に隠し持ち、周りの様子を見ながらピースを小出しにするので、なかなか仕上がらなかったりすることもありました。

そして、時には手が出てしまいトラブルになることもありました。その都度、その都度、子どもの気持ちを聞き、お互いの気持ちを伝え、どうすればよかったのか、子どもたちと一緒に考えるようにしてきました。「手伝う」と言いながら自分が完成させた子も、難しいと困っている子に「ここやで!」と言葉で場所を教えてあげ、本人が出来るようにお手伝いする姿に変わっていきました。これこそ「ななの保育」の真骨頂です。

〈運動会では?!〉

運動会競技は、ご覧いただいたように、“パズル好き”な子どもたちに合わせて『2人でパズル』(大きめの箱3段を積み上げる絵合わせ種目)をしました。誰と2人組になるのかは子どもたちで決めます。運動会の予行ではこんなエピソードがありました。

普段、Aちゃんは参加したりしなかったり、自分から率先して相手をみつけて取り組むことはあまりなかったのですが、この日は早いうちにBちゃんとペアになりました。二巡目にスタート。Aちゃんは3段全て運びたいようでしたがそうはいかず、一方、Bちゃんはすばやく1つ運んでいきます。Aちゃんは残りの2つを運び、2人で積み重ねていくのですが、絵柄が揃わず、なかなか完成しません。「こうかな~?」と言いながら積み替えていきますが、一向にかみ合わず……、とうとう、Aちゃんは「きらい」とボソッと言って待機マットの方へ歩いて行ってしまいました。

なかなか思い通りにならない事が“きらい”という表現になってしまったのでしょう。それでも、Bちゃんは一人で頑張っています。一人で組み替えていくけれど、絵柄は揃わず、悩んでいる様子です。“どうするのかなぁ~”と見守っていると、1巡目に終えたC君が「Bちゃんこうやで!」とごく自然な形で手伝いに来ました。BちゃんはC君のアドバイスで組み替えると、1段目と2段目がうまく出来上がりました。“パズル”同様困っていると手伝う子が見られ、2人の気持ちと気持ちがピタッとはまった感じです。

〈運動会でも!?〉

Bちゃんが一人でしている間「Aちゃんしないの? Bちゃん、一人でしてるけど、行かなくていいの?」と保育者は声を掛けていました。Aちゃんは「うん…‥」とうなずき、マットの周りでウロウロし、チラチラとBちゃんの様子を見ていました。どうやら、Bちゃんの様子が気になっているようです。

“さあ、あと1段”という所で、待機マットの方で様子を見ていたAちゃんが足早に戻って来ました。そして「Aちゃんがぁ~~~!!」と言うや否や、3段目を取って、乗せて完成させました。完成すると2人は「できた~!!」と喜んでいました。

事後、Aちゃんは、その場から離れて様子を見ていたけれど、もうすぐできると分かたので、戻ってきたのかどうか、話題になりました。私はそうだと思います。

“パズル”をした時、出来るようになった子が“出番!”と言わんばかりに「てつだったろうかー」と集まってきたように、最後のピースを自分がしたくて隠し持ち、周りの様子を見ながら小出しにした子のように、Aちゃんは、様子を伺い、きっと、自分でできると判断した時点で駆け寄ったのでしょう。 【資料提供:山本美千代☆寺田皆美】

週刊メッセージ“ユナタン”24(池田すみれ)

2017年1月6日 金曜日

ユナタン:24≫ at 池田すみれこども園

~ あらためて、異年齢、異月齢ゆえに育つもの ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

【乳児も異年齢タイム、はじめています】

幼児クラスと同じように、乳児クラスにおいても、クラスを越えた遊び(学び)の場面を6月から設けています。1歳児赤組と2歳児桃組の2つの部屋をオープンにして、「静」と「動」の遊び環境に分けて、それぞれに数多くのコーナーを設けました。

そこで、子ども自身が持ち前の探索欲求を発揮し「ここで、こんなふうに遊びたい」と自分で遊びを選んで遊ぶ力を育もうと画したのでした。

そんな取り組みを“ハッピーデー”と名付けて毎週金曜日に行っています。

“ハッピーデー”の開始前、一同に子どもたちが集まって「レッツ ハッピー!」とかけ声を発することにしました。明らかに“やらせ”ですが、1,2歳の子どもでも、このかけ声が、はじまりの合図であることを理解して、スイッチが入ります。

【「静」と「動」のメリハリのある環境づくり】

2つのお部屋のうち、赤組の部屋は「動」と位置づけ、粗大遊びコーナー、ブロックコーナーと季節にあった遊びとして夏は魚釣りコーナーを設けていました。「動」の部屋をつくることによって、子どもたちは、思いっきり体を動かして遊ぶことができます。

桃組の部屋は、おままごとコーナー、小麦粉粘土コーナー、絵本コーナー、パズルなどの机上遊びコーナーを設けて、ほっこりと落ち着いて遊びに集中できる「静」の環境づくりをしています。「静」の部屋をつくることによって、周りに走り回る子がいないので注意がそちらに奪われることがなく、同じコーナーで集中して遊ぶ姿が見られます。

赤組の子どもたちは、ふだん桃組の部屋を使わないのでお部屋自体に興味を示して、桃組の部屋に集中し、逆に桃組の子たちは、赤組の部屋に集中して遊ぼうとしました。ですから当初、あまり赤組の子どもと桃組の子どもが交わる姿は見られませんでした。

回数を重ねても、同じコーナーで遊んでいる子が多いので、保育者たちは「赤組さんのお部屋には○○があって、桃組さんのお部屋には○○があるよ!」と“ハッピーデー”を始める前に子どもたちに声掛けしました。すると「わたし、これ、する」と言ったり「こむぎこ、ねんど、あった」と知らせてくれたり、どこで遊ぼうか、と迷っていた子どもたちも、徐々に遊びを選ぼうと部屋全体に関心を持って動くようになりました。

【コンコンからクルクルーへ】

ある日、「静」の机上コーナーで2歳児桃組のAちゃんが絵を描いていました。集中して何枚も何枚も描いていました。すると“コン、コン、コン”という音が聞こえます。Aちゃんの横で1歳児赤組のBちゃんがクレヨンを叩く音です。まだ手指を動かして、描くことはむずかしいようで、クレヨンを叩いて、微かにできる色の点々に目をやり、コンコンと響く音に耳を傾けていました。

Bちゃんが、クレヨンを叩く音は一向に止まりません。Aちゃんは気にしています。集中力が途切れそうになっているのが、表情から伺えます。とうとう、がまんできずにAちゃんは、Bちゃんの方に近寄って行きました。さて、さて、どうなるやら‥‥。

「クルクルー」「クルクルー」とAちゃんの声。叩く音は止まりました。Aちゃんは、Bちゃんにお手本を示していました。くるくるとなぐり描きしてみせたのでした。Bちゃんは、それをじっと見て、「クルクルー」と同じように声をだして、Aちゃんと同じようになぐり描きをしだしたのです。

【年齢差、月齢差が引き出すいたわりの気持ち】

このような姿は、Aちゃんに限ったことではありません。桃組の子が赤組の子に「はいどうぞ」と玩具を渡してあげている姿や、赤組の子が桃組の子が遊ぶ姿を見て真似て、遊び方を会得する姿はよく見られます。この異年齢交流の“ハッピーデー”を通して、赤組の子にていねいに接して、一緒に遊ぶ姿はよく見られ、泣いている赤組の子の頭を桃組の子が“よしよし”してあげている姿も見られます。

これは、ただ単純に“やさしさ”とか“思いやり”が育っている、と言うわけではありません。自分ができる事は、できない子に教えたくなり、自分がしてほしいことは、逆にしてあげたくなる場合もあります。ですから“パッピーデー”でなくても、ふだんの生活の中でもそんな姿は見られます。けれども、“パッピーデー”は、先生が選んだ活動を子どもに投げかける画一型の保育ではありません。そこに大きな意味があります。

自分で遊びを探して、選べる環境は、先生からあたえられて集中を強いられる活動とは全く異なります。また、異年齢、異月齢だからこそ、子どもどうしが互いに学び合う能力は、高くなり、発達の違いを感じ合うからこそ“やさしさ”や“ていねいさ”がその子の心の内から、引き出されるのだと思います。今、赤組の子もしてもらったことを来年、桃組になって、赤組の子に自然に接するでしょう。乳幼児期にこのような環境でこのような経験をすることに値打ちがあるのです。【資料提供:三宅美佳子】

週刊メッセージ“ユナタン”24(もみの木台)

2017年1月6日 金曜日

ユナタン:24≫ at もみの木台保育園

~ ヒコーキ飛ばしの不思議 ~

平成28年10月25日 片山喜章(理事長)

《せんせい、ヒコーキ、作って!》

2歳児そら組のAくんとBくんは、月齢が近く、1歳児にじ組の頃から、いっしょに遊ぶことが多い間柄でした。9月23日の事、その日は雨だったのでおやつを食べた後もそら組のお部屋で遊ぶ事になりました。何人かの子どもが小さめの“井桁ブロック”で遊んでいました。子どもたちは、それぞれブロックをつなげたり、重ねたり、並べたり、色分けして集めるなど、思い思いに遊んでいました。“井桁ブロック”は、はめ合わせるのに少し力がいるので、そら組の子どもたちの力では、はめられない時があります。そんな時は、保育者のところに「やってぇ」とお願いしに来るのでした。

担任が、何人かの子どもにお願されて、以前、作ったことのある“カニ”を作っていました。すると、そこへAくんが「先生、ヒコーキ、作って」とやってきました。

「いま、カニさん、作っているから、これが終わってからでもいい?」と答えると、「うん」と返事をしましたが、すぐに「まだ?」と声をかけてきたのです。なんとなく焦っている感じがします。「もう少しでカニさん、できるからね。その次、ヒコーキ、作るね」と返すと「うん」と応えたものの、またすぐに「まだぁ」と迫ってきました。

そんなやり取りを何度かくり返していると、突然、Aくんは「ヒコーキ、早く!」と言いながら、担任を中心に作りかけていた“カニ”をガガガーと追いやって、自分が持っているブロックを担任に手渡そうとしました。当然、“カニ”づくりのメンバーは、怒ります。一斉に「カニさん、作ってるの!」と大声で言い返して、作りかけの“カニ”を担任の方に戻しました。彼らの勢いに圧倒されたAくんは、しょんぼりした様子で、“カニ”が完成するのを端でじっと見ていました。

2歳児の子どもたちに「保育者が作ってあげる」ことは、どんな意味があるのか考えてみました。自分でイメージして、手を動かして、自分なりのものを作ることが、本来の遊びです。もちろん、みんながみんな作ってもらっているわけではありません。経験的にいえば、ほんとうにブロックを楽しみたい子どもは自分でつくろうとし、保育者とともに過ごし、関わってほしいから「ブロックを作って」という場合もあると思います。

では、Aくんの「ヒコーキ、作って」は、どんな気持ちの現れだったのでしょう。また、その時、Bくんは、何をして遊んでいたのでしょう。

《ぼく、ヒコーキ、作れるよ》

実は、そんなやり取りをしていた近くに、Bくんは居ました。Bくんも、1人でヒコーキを作っていました。そしてAくんに「ヒコーキがいいの? ヒコーキなら、ぼく(Bくん)作れるよ」と声をかけました。Aくんは嬉しそうに頷いて、ブロックを手渡しました。Bくんは、実に手際よく作りはじめ、あっという間にヒコーキを完成させて、Aくんに「どうぞ」と差し出しました。その後、自分が作りかけたヒコーキを脇において、なぜか、Aくんに作ってあげた物と同じヒコーキを新たに作りはじめたのです。

Aくんは、その様子をジッと見ていました。Bくんの作る姿に関心があったか、徐々に出来上がるヒコーキを見ていたのか、定かではありません。

《心の中でスクランブル》

ヒコーキが完成すると、AくんとBくんは、同じヒコーキを持って「ビューン!」といっしょに飛ばして遊びだしました。Aくんはヒコーキを飛ばしながら「先生、これ、Bくんがくれたの!」とうれしそうに伝えに行きました。Bくんに「おんなじだね」とヒコーキを眺めながら、話しかける場面もありました。2人が操るヒコーキは、右へ、左へ、旋回し、時には宙返りして、お部屋がうんと賑やかになりました。

この日、Aくんは、なかよしのBくんがヒコーキを作っているのを見て、自分も同じ「物(ヒコーキ)がほしい」と思って、担任の先生に作ってほしいと言いに来たように思います。一方で、担任の先生にヒコーキをつくってもらって「Bくんといっしょに遊ぼうと思った」とも思われます。また、Bくんは、どうしてAくんに「作れるよ(作ってあげようか?)」と声をかけたのでしょう。担任に再三、作って!と、おねだりし、そして待たされて、しょんぼりしたBくんを見て『作ってあげよう』と感じて「作れるよ」と声をかけたのでしょうか。そして実際に作ってあげて、さらに、Aくんにつくってあげたものと同じヒコーキを自分のために作り直しました。一体全体、どうしてなのでしょう。もし、担任の先生がヒコーキを作ってあげたなら、その後、2人は遊んでいたのでしょうか。いろいろな見方が、今もなお、旋回しています。

たった1つの短時間のエピソードなのに、実にたくさんの想像や憶測や飛び交います。同じ空間でも子どもたちが、感じ、イメージしている世界は別次元にあるようです。保育者は子どもの言動の意味を探ることが大切だと言われます(言っています)。けれども、もしかして、2歳児の子どもの心の中は、様々な気持ちや判断が縦横無尽にスクランブルしているのかもしれません。【資料提供:橋爪佳菜】

週刊メッセージ“ユナタン”24(世田谷はっと)

2017年1月6日 金曜日

     ≪ユナタン:24≫ at 世田谷はっと保育園

~ “でんしゃ”は、はしる、頻繁に ~

平成28年10月24日 片山喜章(理事長)

先日(10月15日)の運動会の2歳児“はっぱ組”の運動会種目です。

まず4人1組で走って中央の坂を駆け上がり、ジャンプします。それから前方にある左右2か所のマットまで走ります。そこまでは、4人4様のペースです。前方マットには大きなフープが1つ。そこで、4人が、2人ずつ左右に分かれてマットの上の大きなフープを2人で持ち上げて、1人が中に入って運転手さんになり、もう1人はフープの外側を握ってお客さんになります。そして2人は、前後1人ずつの“でんしゃ”になって戻ってくる種目です。当日は、トラブルもなくうまく前後に分かれて“でんしゃ”になって戻ってきました。一般的な2歳児にしては“高度”な内容だと思われます。

しかし、練習がスタートして本番に到着するまで、様々な風景がありました。

 

《いっしょに入って進むと楽しかったけど・・・》

この種目のみどころは、4人が色の帽子によって、2人ずつに分かれて、その場で、その時の相手とうまく折り合いをつけて“前(運転手さん)”と“後(車掌さん)”を担って、“でんしゃ”になって進むところです。練習がスタートした頃から本番直前まで、2人いっしょにフープの中に入って“でんしゃごっこ”をくりかえしていました。けれども、直径60センチのフープは、2歳児はっぱ組の子どもたちには大き過ぎました。4人で入ることができる大きさです。

“でんしゃごっこ”を始めて、まもない日のことです。その日までは2人いっしょにフープに入って進んでも“でんしゃ”は、すいすい動いていました。1人が子がリードし、もう1人がなんとなくリードされる姿。あるいは、フープが大きいので2人が横並びでフープの前を持ってフープの後ろ側が垂れ下ったままで進む姿など、それぞれが、それぞれに楽しんでいるようでした。そこでは、前か後かということに執着する姿はほとんど見られずトラブルになることもありませんでした。しかも、エンドレスでくりかえしてしていたので、前方のコーンを回って戻ってくるルールも会得していました

しかし、くりかえししていると芽生えるものがあります。自分が運転手さんになって相手の子をお客さんにしてしまう「執着心」です。また“でんしゃごっこ”を何度も何度もパートナーを変えていると奇妙な感覚を味わいます。1つのフープに2人で入ると、前でフープを握ると心地よく進み、後ろの位置では、前の友達にぶつかって、居心地の悪さを感じます。そんな事もあって、とうとうその日、トラブルが発生したのでした。

 

《譲れないのはわかるけど・・・》

長椅子を縦において、またいで座って待機し、順次、前に詰めていく設定ですから、2人は、自分でフープに入り、“でんしゃ”になるパートナーも理解できるのです。運転手さんとお客さんは、その場で、その子どもたちで取り決めてスタートします。

AくんとBくんがペアとなって、スタートしました。コーンに向かうまでは2人とも自分が先頭のように前のめりになり、コーンを折り返すところで、Aくんなのか、B君なのか、どちらが先に回るかで言い合いになりました。お互いに「こっちから」「コッチから」「ぼくが」「ボクが」と譲りませんでした。力も拮抗して綱引きになったり、背中合わせで引っ張り合ったり、その場から動かなくなりました。

すると、長椅子で順番待ちをしていたCくんが2人に駆け寄って「こっちにいくんだよ!」と仲裁に入りました。しかし、2人の声は大きく、気持ちも高ぶっていたので、Cくんの仲裁は無視されました。仕方なく席に戻ろうとしたCくんの横にDちゃんが駆け寄って、やさしく、「あのね、こっちから行けば良いんだよ」と声をかけました。2人に付き添われながら、“でんしゃ”は、前へ後へ左に右に少しずつ動いて、5分くらい時間を費やしてゴール。そして次の2人に交替。Aくんは大泣きしていました。先生は、2人の言い分を聞きながら、落ち着かせていました。そしてまた、Aくんの出番がまわってきたのです。今度のパートナーはEくんです。

 

《何度もくりかえしたから、こそ・・・》

1回目と同じように2人とも運転手気分でコーンまで進みました。しかし、コーンを折り返すところからAくんは後ろになり、「こっちからいくの?!」と晴れやかな顔で運転手になったEくんに声をかけました。Eくんに譲ってあげたのです。先生たちが和んでいると「今度は、けんかしてないねー」「ほんとによかったね~」と声がしました。仲裁にはいったCくんとDちゃんでした。2人ともホッとしたような笑顔で話をしていました。Aちゃんの変身ぶり、そしてこの2歳児の2人の会話は、何でしょう、ね。

日頃の園生活の賜物(↑)だと思いますが、練習方法にも起因します。私の練習コンセプトは「少人数化」「短時間」「エンドレス」です。勝敗を度外視してチーム数を増やして、エンドレスにして個々の経験量を増やし、1日5分~10分程度の短時間に収めるというものです。毎回、相手が変わり、前になったり後ろになったり、何度も何度もくりかえすうちに、当初は執着心を促し、その後、執着心から譲歩する精神を引き出すと考えているからです。短時間で何回も経験する方法は他のクラスでも採られました。

ただ、運動会当日、Fくんは終わって戻って再出発と思いきや、先生から制止され、とても不満そうだったことに申しわけなく思いましたが……。【資料提供:和田啓介】