種の会の取り組み
自分の選んだコーナーで遊ぶ
朝、登園してきた子どもたちは2時間ぐらいの間、読書をしたい子、ごっこ遊びをしたい子、ゲームをしたい子など、それぞれ自分が選んだコーナーやエリアで遊びます。コーナー遊びは異年齢で行っています。異年齢というよりも「気の合う者」というほうが正しいです。4歳児の3月生まれと、3歳児の4月生まれが仲良く遊んだり、5歳と3歳とが発達の違いを超えて一緒に遊んだり、また、ひとりで遊びに没頭することもあります。その子どもの選択に任せることは、自発性を促し、情緒の安定や主体性を育むうえでとても大切です。なかには、「今日はこの遊びをして、明日はこれをしよう」「明日も続きをしよう」と自分で考えて見通しを持つ子も出てきます。
しかし中にはあやとりや園庭の竹馬のように、ただポンと置いておくだけでは、全くふれない場合があります。そこにはやはり保育者の導きが必要です。4歳、5歳になると課題意識を持ちはじめるので、「がんばり表」を作ることもしました。「あやとりで富士山ができたら一枚」「台の上で竹馬ができたら一枚」というようにシールがもらえます。そうすると子どもたちは、はじめはシールをふやしたくて頑張るんですが、やがてこの遊び自体のおもしろさに引き込まれます。この方法は「子どもを追いこむのではないか」という懸念や批判があるのは承知していますが、興味を示さない子に対して「がんばりなさい」と、追い込むことはありません。友達どうしでも言いません。あくまでも、気づきをあたえたり、チャレンジする気持ちのある子にきっかけを与えてあげる「導き」が必要だということです。
異年齢で活動する時間もあります
みんなで一つの成果を得るための活動は、年齢の近い子で構成されたクラス別で活動する方が望ましいと考えます。しかし、コーナーやエリアでの自由な遊びの他に、リズムやごっこなどのテーマのある活動も異年齢で行うことがあります。年少児は年長児たちから刺激を受けて、どんどん活発になっていきますし、年長児は年少児に一生懸命伝えようとする姿も見られます。こういう経験は保育園だからこそできると思います。
あるときは年齢ごとのクラスの仲間と、そしてあるときは、異年齢の気の合う仲間と遊びを選んだり、異年齢でありながら、同じテーマで一斉活動をして過ごす、まさに、縦、横の関係をバランスよく立案していくというのが、私たちがこころがけている保育の方法です。
サーキット運動を毎日しています
長年、幼児体育に携わってきたなかで、日々感じる仮説があります。「身体機能を高めることによって身体的なバランスが良くなると、精神的にも自分をコントロールする力が備わるのではないか」という説です。そこで、乳児の頃から「サーキット運動」を毎日行うことにしました。
遊具を組み合わせ、滑り台や坂を設置したり、平均台やマットなどを並べて、周回コースをつくり、みんなで何周も繰り返します。「今からサーキットの時間ですよ」という合図がわりに音楽を流し始めると、子どもたちはどんどん動き回ります。今まで何もなかった園庭や遊戯室に急にいろんな遊具が出てきます。園庭の滑り台はこの時間だけ逆から登ってみたりします。大人なら2周もすれば飽きてしまうかもしれません。でも子どもたちには「動きたい」という生理的欲求がたくさんあります。大人が想像する以上に子どもたちの体力=運動意欲はありあまっているんです。いつもある固定遊具の環境では運動欲求は集中されず、何もないところに突然出現して、終わればまたさっとなくなる流動的な環境が意欲を生み出します。そんな環境を設定するのが、保育者の専門性であり、大切な役割です。
また、サーキット運動中に音楽を流すのには理由があります。乳児には、乳児特有の感覚があります。「この音楽でサーキットスタート。この音楽が流れたら部屋に戻る」というようなことをくりかえすと言葉の指示が無くても、自然に理解して行動に移します。同じ順番で音楽を流し、決まった曲で終了するという基本を崩さないこと、これは自立を促していると同時に意欲を維持するうえで大切なことだと考えています。
自然のもの、本物にこだわります
一日の大半を過ごす保育園の室内環境については、できるだけ季節感のあるものを置いて、落ち着きを与えたいと心がけています。まず、”自然のもの”、”本物”に触れさせていたいということがあります。花や緑など、植物を身近に感じてもらうために、室内装飾一つにしても、松の枝や葉っぱ、どんぐりなど、本物の材料を使ってオブジェを作ってみたり、写真を飾る枠を作ったり。それらはいつも子どもの目に触れる場所に置いておきます。いつも同じ場所に同じようなものがあることは、子どもたちに安心感を与えます。そういう感覚って、私たち大人にもありますよね。個々の保育者がそのような感覚を抱き、保育者集団の共通テーマとして意識して、園全体で取り組んでいます。
主体的に行動できる子どもに
「環境を通した保育」は、主体的に行動できる力を養う保育だと捉えます。コーナーやエリアで遊びを遊ぶこと自体が主体的だと言えます。また「保育者主導」と揶揄されやすい一斉保育であっても、サーキット運動のように活き活きと主体性を引き出せたり、同年齢集団、異年齢集団、と属する集団の質を変えることも環境の多彩さだと考えます。コーナーやエリアの環境を整える大切さと同等に、子どもたちが主体的に取り組むことができるような「時間や期間をかけたテーマ保育」あるいは「プロジェクト・アプローチ」(テーマを投げかけて実践していくうちにどんどん変容していく保育)といわれる保育を大切にしています。クッキングなどは、最初は保育士がていねいに伝えますが、その後は、子どもたちだけでやりきれるように何度も同じ取り組みをします。回を重ねると、「これは私がやる」「こっちはぼくがやる」と子どもたちは役割を決めながら、最後は、「自分たちだけでやりきった!」という達成感を味わいます。そして、買い物から準備、片付けまで自分たちだけで行えるように保育に見通しを持つことも主体性を育むうえで大切です。
保育は、「保育者が子どもを認めるのと同等に子どもが保育者を認める」ことで成り立ちます。それがはたせてこそ、「子どもたちどうしが認めあえる」ようになります。自分が保育者から認められ、自分以外の人のことを素直に認めることができる、それも主体性の育ちです。「相手を認めることが自分も活かされることだ」と個々が気づけるような保育実践をめざしています。